長編 | ナノ


キメラみたいな醜い想い

俺は、心底驚いた。

あの女が俺と同じ学校にいる、あの女が俺と同じクラスで、後ろの席にいる。昔は、俺の前にいた奴が、後ろの席に座ってる。笑ってやりたい。自己紹介の時、友人に煽られながら、俺はやりきった。そして後ろの席の女は目立たない自己紹介をぶちかました。けど、どんな奴にも聞こえるような地声がなんとも変な雰囲気を醸し出している。笑いをこらえながらオリエンテーリングが終わった。


次の日から、俺はあの女に直接かかわるように仕向けた。最初はあいさつから。仏頂面でも返してくれるだろう、それくらいの心の広さはあるだろうと踏んでいた。だが、あの女は視線を外して無視。しつこく声をかけると不機嫌そうに答えた。案外この女、あの時のことを引きずっているのかもしれない。周りの誰ともつるまないし、話しかけようともしない。怖がっているようにも見えた。教師とは喋るけど。

俺はあきらめず声をかける。


毎日そんなことを繰り返していると、変な感情が湧いてきた。吊り上げてやろうとしていた悪戯心から、親心のような、慰めてやりたいという気持ちに変わっていった。


「最後まで手伝ってくれてありがとう」


雑務をすべて終えた後、ナマエは言った。


「いいや、なあ。ナマエ、俺はお前の忠告なんて聞かねぇぞ?」

「…ふぅん」


意味深な相槌に俺は吹き出した。ナマエは自分自身を食らい少女Aに見せているけど本当は違う。変な色気と言うか、ミステリアスな雰囲気を出している。俺はナマエの綺麗に切りそろえられた前髪を掴んで「もうちょっと短くしてみれば?」って笑ってみた。


「…これくらいがちょうどいい」

「授業の時、見えねぇだろ」

「アンタが、手嶋純太がもう少し小さくなってくれれば」


初めてナマエに名前を呼ばれた。じわりと胸のあたりが熱くなった。にやける顔を片手で抑えて笑いをこらえているようなそぶりをした。ナマエが気づいていないといいが。