長編 | ナノ


カメレオンキャンディプリーズ

あの男、手嶋純太は最低な奴だ。ことあるごとに私に絡んでくる。
たとえば、二人でペアを組んでレポートを書くなんてことあれば、すぐに私と一緒に組もうと誘ってくる。私の答えなんて気にしないで「じゃ、一緒な」なんて無邪気に笑ってる。私にはできない笑みを彼は私に見せつける。


一度も私は断れなかった。たった一度も。出る声は猫なで声と、大人っぽい女の声。女子からは冷たい視線なんて来なかった。なぜか、私と手嶋純太は付き合っている設定になっているみたいだ。ただ、生暖かい目で見られるのは吐き気がする。


「おはよう、ナマエ」


とうとう手嶋純太は私のことを名前呼びし始めた。

まるで一線を越えた彼氏と彼女のようだ。その会話にそば耳を立てていた女子が小声で「きゃー」なんて言いながらどこかのカメレオンの群れに行ってしまった。きっと内容は汚い話。手嶋純太と私がセックスしたとか、キスしたとかそんなもんでしょ。この先、私が体調を崩したらいきなり「妊娠説」なんて出てきたら笑ってしまう。


「なあ、おはようって」

「聞こえてる」


口から出た言葉は久しぶりの本音だった。封じてきた本音なんてこいつの話術によってすぐに解かれてしまう。この男は油断ならない。


「なんで途中で逃げ出したんだよ」


それにずいぶんとデリカシーのない言い方で私に質問してくる。答えるのがめんどくさいからヘッドフォンを装着して寝よう。鞄に手をかけたらぱっと止められた。紛れもなくこの時計つきの腕は手嶋純太だ。


「まあまあ、俺も心無い言葉かけて悪かったよ」


詫びている姿が一向に見えない。


「これからは仲良くしような?な?」