長編 | ナノ


答えを知らないまま眠る

「お前のところに女の用心棒雇いだしたんだってな」


久しぶりに東堂に会いに行った。わだかまりが消えて、行き来できるようになり、俺はどこか喜んでいた。暇だった東堂を見つけて、話しかけると東堂は喜んでくれた。茶菓子も持ってきたので、茶室に招かれ和やかに会話を楽しんでいる。ふと、思い出したことを聞いてみると東堂は少しだけ答えづらそうにしていた。


「雇っているわけではないな」

「…はあ?」


もしかして、慰み者として誘拐でもしてきたのか。金のかからない女を囲って、生活しているのか、頭の中にはいろんな考えが浮かんでいる。しかし、東堂は慌てた素振りをせずに、落ち着いて俺の誤解を解いた。


「ミョウジナマエと言ってな、あの子は男娼お抱えの用心棒だったんだ。だが、フクが雇いたいと言い出してな、少し強引だが屋敷に置いているんだ」

「そりゃずいぶんヒデェ話だな。けど、そいつは腕が立つんだな」

「ああ、少々感情的な人間だが技は一級品だ。だが、あの子に可哀想なことをしてしまった」


東堂の悲しげな表情は初めて見た。可哀想なこと、とは何だろう。そして、東堂をこんな風に表情豊かにさせるミョウジナマエとはどんな奴なんだろうと少しだけ興味がわいた。


「なんだ?可哀想なことって」


ごくりと喉仏を上下させながらお茶を飲んだ東堂は、どこか遠くの景色を眺めるような目つきだった。俺はちらりと見ただけで、眺めることはしなかった。このままでは口のうまい東堂に流されそうな気がした。


「この間、火事のあった男娼館があいつの故郷だったんだ。てんでんばらばらに客は逃げたが」

「死傷者が多いって話を聞いたな。家を潰したせいで死んだ奴らも多いって」


そういうことか、俺は納得してお茶を飲みほした。たまたま連れてきた金城は、ここまでたどり着いたのはいいが具合が悪くなって布団を借りて横になった。そんな金城から唸り声とともに混じった言葉が聞こえた。


「巻島、悪いが包帯を変えるのを手伝ってくれ」

「なんだ、俺も手伝うぞ」


東堂は腰を上げて金城が横になっている部屋を開けた。一瞬だけ、金城は差し込んできた光に目を細めたが、東堂と、俺の顔を見るなり愛想笑いを浮かべた。というか、この笑いは何か企んでいるようだ。


「ああ、頼む。あと、すまないがそのミョウジナマエの話をもう少し詳しく聞かせてくれ」


なぜ金城はミョウジナマエに興味を持ったんだ。




「おめさん、一緒に菓子くわねぇか?」


障子を開けたのは新開だった。ナマエは食事をした後急に眠くなって俺の膝の上。


「あー新開、ナマエは」

「なんだ、靖友。おめさんが食事中だったのか」

「っせ、ちげぇよ。ナマエチャンはオネムの時間なんだよ」

「お、っそっか。悪いな。ナマエの様子はどうだ?」

「途方に暮れてる感じだな。まあ、もう少ししたら手なずけられる」

「へぇ、おめさんが男娼で学んだこと使うのか」

「惚れた女を手放すなんて馬鹿な真似はしねぇよ」