炎に包まれた夢まだふわふわしている。思考も、意識も。けど、はっきりわかるのは毒を盛られたこと。誰かが私の口の中に液体を入れた、冷たい、しょっぱい。次に襲ってきたのは吐き気だった、あらかじめようにされた桶に出せるもの全てを吐き出して、またしょっぱい水で口の中をゆすいだ。そんなとき、誰かが障子をあけて「東堂さんっ」と切迫した声音で名前を呼んでいた。近くにいたのは東堂様か。
「どうした、泉田」
「それが、今、金城さんのところから巻島さんと田所さんが来ていて…荒北さんが東堂さんを今すぐ連れて来いと…」
ひと悶着があったらしい。ぐにゃりぐにゃりと曲がりくねった思考の中でわかることはそれくらいだった。もう一度しょっぱい水を口に含んで頭の中にある雲を晴らそうと努力していた時、ふと耳に届いたのは「まずいな」と苦悶している声。
「うむ、わかった。なら泉田、悪いがナマエを」
「待って、私を、連れて行け」
そのあと、東堂様の背中に乗せられて風が吹く方へ連れていかれた。運ばれている間に私は東堂様に耳打ちをした「私の言葉をそのまま伝えろ」と。
「…それは…別に、俺たちは」
「なら、なぜ謝りに行くことも、詫びの品まで受け取らない」
東堂様は私の言葉を自分の言い方に変えてしゃべっている、緑色の髪の毛の男はうろたえるばかりだ。もしかして、という予想はまだ消えていない。
「俺は二つ、考えがある。一つは水臭い、そんなことしなくても俺は気にしないという金城の気持ち。もう一つは、俺たちにかかわるとまた領主が大変な目にあうんじゃないかと言う過保護な気持ち。はっきり言ってくれ…巻ちゃん」
そこで私は言葉を東堂様に伝えた後に意識を失った。
また目を覚ました。今度は布団の上だった。死ななくてよかったなんて思ってない、ただ、生きているんだという真実を突き付けられて漠然としている。両脇には福富と東堂様に新開様なぜか靖友様はいなかった。私が起き上がろうとすると東堂様は「まだ毒が抜けきっていないから無理しなくていい」と微笑みながら言う。私は短く「平気だ」と伝えると、ゆっくり起き上がる。だれかがやさしく羽織をかけてくれた。
「東堂様、先ほどは失礼しました」
目線だけを向けると、東堂様は笑っていた。あの事件は収拾着いたようだ。
「いいや、お前のおかげでことは丸く済んだ」
「おめさんは口がうまいのか?ぜひとも」
にやにやしていた新開様の間に入ってきたのは福富だった。なぜか神妙な顔つきで、腕を組んでいた。どっしり構えた姿は似合っているが、なぜか私にはそれが恐ろしく感じた。何か、嫌な予感がした。福富はこちらをじっと見て、口を開いた。
「新開、すまないがこちらの話を先にした方がいいだろう、ナマエ、落ち着いて聞いてくれ」
新開様も先ほどまでにやにやしていたのに、なぜかきっと口元をしめた。東堂様もどこか言いにくそうで、私はドキドキしていた。悲報か朗報か、何にせよ早く聞きたい。
「おめさんには堪える話かもしれねえんだ」
「なに、何があったんだ」
「お前が勤めていた男娼町が大火に遭い、消滅した。もうないんだ」
「…いま、なんて言った」
「おめさんの故郷はもうないんだ」
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