ちかちかの月俺には大好きな人がいる。姉のナマエだ。ナマエはおっちょこちょいで、行動はトロイけれどやさしく笑ってくれるから好きだ。
小さいときから俺の手を握って、どこにでも連れて行ってくれたし、得意な運動で賞を取るたびに喜んでくれた。調子乗るなと、上級生にいじめられたときは俺をかばって、守ってくれた。
けど、小学生の後半で違和感を取った。ナマエの顔と俺たち家族全員の顔が似ていないのだ。近所の人たちも俺たち、家族を見てひそひそと言っていたのは気づいていた。そういうこともあるってテレビでやっていたけど、中学の時に本格的に勉強したとき裏切られた。隔世遺伝だとしても、ナマエは誰とも似ていなかったのだ。
そのころからナマエのことを家族とは思えなくなった。家族ではなくて、一人の女として見てしまう。ホントの姉弟だと言い張る父母の言葉が信じられない。
どうしていいかわからない感情が、ぶつかり合って、ナマエを突き放すような態度しか取れない。どうしたらいんだ。
苦悩する毎日の中で、ナマエが目立って変化するときがあった。荒北さんと出会って、荒北さんと話すたびにナマエは綺麗になっていった。頬を少しだけ赤らめて、幸せそうに笑っている姿を見て確信した。ナマエは荒北さんに恋をしている。荒北さんは俺のことを侮辱して、からかって、気にしてくれるいい先輩だ。けど、ナマエのことは渡さない。
だから、確信が現実に現れる前にくぎを刺さなきゃ。
俺が愛していると伝えると、ナマエは予想していなかったというような顔をして、口を慎んでいる。なんで気づいてくれなかったんだと何度も、泣きながら言うとナマエは困っていた。
「ナマエ、黙ってたらわかんねぇよ。なんで談話室を選んだと思う?俺の部屋だったらアンタを今頃犯してる。これほど譲歩してやってんだ、答えないなんてひどくねぇ?」
「ゆき、なり」
「悪いけど、俺はあんたが思っているより性格が悪くて底意地が汚いんだよ。かわいい、弟の雪成くんはここにはいない」
目の前にいるナマエは、本当にきれいだ。チカチカ眩しい、月の様だ。
「私は黒田家の隣に住んでいた夫婦の子供だったの」
やっぱり、血がつながっていなかったんだ。俺の推測は外れなかった。ショックよりも喜びが大きかった。ナマエを取り囲むチャンスはあるんだと云う喜びだった。目の前に座って、淡々と語っていたナマエ。まだ終わらないかと、浮き足立っていた。
「両親ともに、事故死で私は施設送りになりそうだった、けど黒田家の人が私を引き取ってくれたの。だから私は雪成とは血がつながっていない」
「本物の姉弟にならなくたっていいだろ」
「…雪成、私は貴方のことを弟としてしか見られない」
「なん、で」
「ごめん」
なんで謝るの。そういう言葉を聞きたかったんじゃないんだっ、俺はあんたの笑ってる顔を見たかっただけなのに、なんで、一緒に暮らし居たのに気持ちは伝わらないんだ。
吐き出しそうになる思いを押し殺して、俺は核心を突っ突いた。
「ナマエ、アンタは荒北さんが好きだからそういうのか」
「荒北君のことは今、出す話題なの?」
「俺はアンタのことだ好きだ、けどアンタは俺を弟として見ている。それはアンタが荒北さんのことが盲目的に好きで俺のことなんてどうでもいいからなんだろ」
面白いくらい、ナマエは表情を変えた。顔を赤らめて、否定しようとしてもできない姿。俺が欲しいもの、俺が望むものをすべて荒北さんは持っていく。
「荒北さんはあんたのこと、どうとも思ってないだろ」
そう言い放って俺はその場から逃げた。ナマエがそのあと、どうやって部屋に戻ったのかも知らない。もう、知りたくない。何年も苦しんだ結果がこれなのか。誰を恨めばいいかわからないまま、俺はベッドの上に横になって目をつぶった。
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