泣いたって答えなんて出てこないさ食事を終えて、友達に「ちょっと呼び出されたから先にお風呂入ってて」と言った。
友達は深く追求せずに了解してくれた。私は談話室へと向かった。談話室へ行くと、もう雪成くんは座っていて窓の外の景色を眺めていた。横顔が、彼のお母さんそっくりだ。
声をかけると、少しだけ驚いた顔をして「座って」とソファへ促した。
「俺さ、思うんだ。なんでこんなにナマエは俺に似てないんだろうって」
雪成くんは静かに語りだした。重々しく、それでいてなぜか冷静に。冒頭の言葉を聞いた時、私は終わったなと感じた。この口ぶりだと雪成くんは私と血がつながっていないことを知っているんだ。そういや、中学って染色体、またはデオキシリボ核酸のことを勉強するんだ。
「中学の時に、勉強したんだ。隔世遺伝のことも。それでも、ナマエは似てないと思ったんだ。じーさん、ばーさんにもナマエみたいに釣り目の人なんていないし、とりわけ背の低い人なんていないし。だから、俺は」
私は、この話を聞いて「実はもう知ってたんだ」と答えたらいいのか。
それとも傷ついたふりをした方がいいのかわからない。雪成くんだけが、私が血のつながらない人間だと知らなかったんだ、誰にも打ち明けられていないんだ。彼は本当の家族なのに。雪成くんは、言いづらそうに何度も、口を開けたり閉じたりしていた。
「雪成くんと私の血がつながっていないとして、拒絶する?」
少しだけそれた話題をぶつけると、雪成くんは顔を上げて歪んだ表情を見せた。
「もう一度聞く、雪成は私と血縁関係を持たなかったら、拒絶する?」
雪成くんに真面目な話をするときは必ず、敬称はつけない。それがルールだ。私が言い終えても、雪成くんははっきりとした答えを私に打ち明けられずに、ボロボロ涙を流し始めた。怒っているわけじゃないの、泣かせたいわけじゃないの。ただ、真相を知りたいの。
「おれ、は」
「うん」
「ナマエと、ずっと、この先も、一緒にいたい」
「そっか」
けどさ、家族でも一緒にいることはできないよ。最終的にはみんな仕事をするために地方へ赴くし、雪成君だって将来は結婚して家庭を持つんだから。私は苦笑を浮かべながら雪成君へ言葉を返そうとした、けど、まだ彼の言葉は続いていたようだった。
「家族じゃなくて、一人の、男としてナマエのそばに居たい。だって俺たち姉弟じゃないんでしょ、だったら男女関係に慣れるじゃねぇか。キスだってセックスだって結婚だって子供作っても誰も、とがめられないだろ。なあ、ナマエ、どうなんだよ」
今なんて言った?
「ごめん、雪成くん、もう一度言ってくれる?」
「俺はアンタを愛してるんだよ、気づけよ」
雪成君はなんども「なんで気づかねぇんだよ、バカ」と言って顔を伏せる。
涙をこぼして、肩を上下に動かしながら震えて、吐露する。その姿が寂しそうで、苦しそうで、孤独そうだった。私は雪成君の発言の予想の範疇を超えていた。家族として拒絶されることを怖がっていた私が求めていた答えと全く別の、答えが返ってきて驚きを隠せない。あんなに冷たい態度を取っていた理由は、そういうことだったんだ。
家族として見られないから、彼はたった一人で苦悩していたんだ。
私は血がつながってない、という真実を言って彼を幸せにするべきなのか。
血がつながっている、という虚勢を張って彼をどん底に突き落とすべきなのか。
この瞬間に、彼の人生がつながっている。
なぜか愛しているという言葉を聞いて、荒北君の顔がちらついた。
「なあ、ナマエ。返事を聞かせて」
誰か、私に正解を教えて。
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