長編 | ナノ


幸せと不幸は紙一重。
隣で、すやすやと時折唸り声を上げて寝ている男は私にとってどんな相手かと問われると、答えることに数秒時間がかかってしまう。なぜなら、私は不本意にこの場所にいるから。無理やり連れ出されたって言ったほうが早いいかな。



遊郭お抱えの用心棒をする私は、遠い昔に親に売られたとかじゃなくて自ら進んで顔を傷つけて用心棒になりたいと志願した。

今でも右目の下に縦に一線、傷が残っている。

大きな理由は、私を産んでくれた親のお友達の息子が男娼として売らなければならなくなって、その息子は今頃どうなっているのか、自分よりも大事そうに、心から不安がっていたからだ。どうして、私じゃなくて他人の子供を心配するの。その息子を間接的に守れば、親も私のことを認めてくれると少ない脳みそで知恵をひねり出して用心棒になった。


訓練は辛かったけど、でも自分が強くなったと知れば知るたびに体全体が満たされた。

これで誰かが求めてくれる、誰かが守ってくれると求めてくれると思えば苦ではなかった。

両親が心配していた赤の他人の息子は誰なのか、探してもわからなかった。同じ時期にたくさんの男が売りに出されていたので、もしかしたら、別の場所に流されたのかもしれないと思えば、あら、残念。の程度だ。



だが、淡々と語っていてはすべてはわからないだろう、少しだけ彼らとの出会いを語ろう。
日常である、刀研ぎを済ませてクナイを磨いて一連の鍛錬を積んで夜に供えた。外がさわがしいから来て欲しいと手代たちが駆け込んできたので、重い腰を上げて、その音のなる方へと進んでいけば進んでいくほど、嫌な予感は迫ってくる。
男娼が多額で買われたので引取りに来たんだ、けど引き取り手がちょいと厄介な野郎ども。



「ぎゃあぎゃあ、喚くんじゃないよ」

「お嬢、あの男を説得して下せぇ」

「話がうまいのはお前じゃないかい、私は口達者じゃないもんでね」



口を歪めて返答すると、客引きの男はどうか、頼むと言い残して私に面倒事をしつけて去っていった。これも努めの一環か。眉間にしわを寄せて腕を組みながら、騒ぎの中心へ足を運ぶと、金髪の男と商売人が何やら話をしている。その傍らには鎖で繋がれた男娼がひとり。金髪の男の周りにはもう二人の見慣れない男が立っている、きっと護衛だろう。私が近づけば近づくたび、見物人が避けてくれる。私が金髪の男の背後に立ち回ろうとしたら、護衛のひとりは私を近づけさせないように通せんぼする。


「いま商談中なんだ、悪いな」

「その商談がうまくいっていないんだろう、そこを退いて頂戴。私が話をつけよう」

「お嬢っ、如何なさいましたか!」

「喧騒に発展する前に助け舟を出しに来たのさ、で、何があったんだい」

「そ、それがですねぇ。このお方が奴を買うと言いまして」

「なにか売り渡せない事情でもあるのかい」


商売人が縮こまっていることをいいことにそろばんと筆が置かれた机にどかっと座ると、額に脂汗を書いて何かを弁解しようとしていた。きっと裏があるんだろう。地獄に近く天国に遠いところで、ごまかしが効くと思っているんだろう。私が舌打ち一つしたらびくりと肩を鳴らす。商売人の周りにいる手代たちも隠れながらにも刀と毒針を持っている。長時間対立するのも店の評判を落とすだけだ。


「そうだ、手っ取り早く帳簿を見せてもらおうか」


私が声を張り上げて言うと奥で歯ぎしりをしていた主人が「やれ」と指令を出した。飛びかかってきた男どもを蹴散らして、毒針が刺さった膝なんて無視して主人を斬りつける。片腕一本なくなったって死にやしないのに、ひどく怯えた声で走り回る。商売人も逃げ出そうとしたのでクナイを投げつけ逃げてはならぬと釘をさす。


「その男が働いた分の金を持ってくる、待っていろ」

「…いいや、金ではなくお前が欲しい」