長編 | ナノ


一輪の花はこうして開いた
赤い糸なんて結んだもん勝ち。


隣ですやすや寝ているのは、俺が心から愛している女。寝ている姿は、職人が手がけたような美しい人形に同等、浅く呼吸をすると一糸まとわぬ体がちらつく。白い肌、とはいえないが触り心地がいいなめらかな肌に指を這わすと、かすかに彼女の体が動いた。起きてしまっただろうか。気だるい体を動かして俺の額と彼女の額を付き合わせると、彼女が見ている夢さえ見えてしまいそうで口角が自然と上がる。


「絶対、手放してやるかヨ」



俺は生まれた時から恵まれた家庭に居座っていた。


富豪とは言わないけれども、何不自由なく育ってきた、けれど突然、家柄は没落。

父親はどこかへ消えて、残りの家族を守るために俺は男娼になった。

稼ぎはいいんだぜ、ほかの仕事より。始めの頃はまともな客も接待できなくて殴られたり蹴られたり、まあそのせいで俺は右肘を悪くしたんだ。折檻ってやつは懲り懲りだな。客は女だけかと思っていたら衆道も客として呼び込んでいたらしく、掘られたときは男なんて相手にしたくないって心底思った。

もう、俺の人生終わったな。


そんなことを考える毎日繰り返していたら、ある人が俺を拾ってくれた。たまたま、外に出て男娼だと馬鹿にして喧嘩をふっかける輩をひとりひとり丁寧に相手してやっていたら今の俺の主が腕っ節を見込んで引き取ったのだ。自分が汗水たらして働いても返せない金額で俺は自由の身になり、今の主の番犬になっている。



「荒北、起きてるか」

「ンー起きてるヨ、フクチャン。どうしたのォ?」

「…仕事には遅れるな」

「わかってるって、フクチャン」

「ああ」