長編 | ナノ


終わらせる→紡いではけないのだ
学校で直接話すことはないけれど、メールでのやり取りをしている。


父の風貌や、佇まいなどを教えると荒北靖友くんはお店の人を呼び出して何やら見かけたら教えて欲しいと言っている。店を出てからも知り合いがいれば、同じように見つけたら教えて欲しいと頼み込んでいた。おせっかいを焼いているように見えて本当は、私をさっさとこの格好をやめてほしいんだと伝わった。

だって似合わない。

うつむき加減で私が街を歩いていると、手を引いてくれる荒北靖友くんは後ろを、迷いもなく振り返ってぎらりと睨みつける。なんと返していいのか、戸惑ったけれど私はお礼の言葉を言う。荒北靖友くんは聞いたら聞いたで不機嫌そうに口を歪める。


うーん。やっぱりコミュニケーション取ることが苦手な私がお礼を言っても空回りか。


そんな長い長い夜の話から、数ヶ月。

荒北靖友くんから朗報が届いた。父が私が訪れたあの小料理屋に来ていたということ。私は今晩にでもそちらへ向かうと荒北靖友くんに放課後に、直接伝えると、口ごもる彼。どうしたんだ、不思議そうに彼を見ると重たい口を開いた。


「会わない方がイイんだケド」と、きっぱりと言った。


私は彼の眼差しを直視することはできなかった、ああ。そっか。


「私、覚悟。なかった」

「…そうじゃナ」

「ううん、ないの。覚悟、今の私には持ってないの。荒北くんに会わない方がいいって言われたとき、なんか」


ほっとしちゃったの。


本音を告げると、荒北靖友くんは眉間にしわを寄せて私を見つめる。


どこか苦しそうな、その眼は薄情でどうしようもない私にでも背けられないものだった。父親の生活とかを知ってしまえば、今の父親の取り巻く環境を知ってしまえば、出ていった父親に面目ない。どんな気持ちで父親は私という子供を、私の母という女を捨てて行ったんだろうか。


それは知ることなんてできない。もう、切れてしまった糸を紡ぐ必要なんて私にはない。
そして紡いではいけないのだ。


「ありがとう、荒北くん。探すの手伝ってくれて。バカな私のお願い事聞き入れてくれて」

「俺も悪かったヨ。手伝った挙句に会わない方がいいって言っちまたし」


私は首を横に振って、何も悪くないよ、と伝える。彼は疲れていたのかもしれない。すっと、思いつめた様子から変わっていつもの顔。静寂は私と荒北くんを包み込み、もう私たちをつなぐ糸なんてないんだよ、と柔らかい風が知らせた。

 →