助けてみる→まだ聞き足りねぇよ「会いたい人ってのは、恋人とか?そんな感じ?」
私の話を聞いてくれる荒北靖友くん、どうしてここまでやるのか全く理解できない。ただのおせっかい野郎ですか。そんなおせっかいの安売りはほかの人にしてください。
私はこんなところで時間を売っている場合じゃない。消耗されていく時間が惜しい、もう一度お冷に口をつけて置いてある黒い塗り箸に手を伸ばす。何十分も外にいたんだから、お腹空くのは当たり前。野菜中心の料理に私は箸を伸ばして皿に取り分ける。どうやら、この小料理屋は荒北靖友の知り合いが経営しているところみたいだ。先程からアイコンタクトして、気持ち悪い。
私だけのけものですか、ハイハイ。
真実を白いベールにも包まず、私は彼に伝えた。けれど、彼は私のことを馬鹿になんてしなかった。聞き入ってくれる彼にありがたみが感じる。話を振られたので私は返事を返す。
まあ、女の人が探しているって言えば別れた相手だとか、いなくなってしまった恋人とか?だけど私の場合はちょっとだけ違う。
「ううん、違う。私が会いたい人は実の父親」
苦笑を交えながら私が言葉を発すると、荒北靖友くんは眉間にしわを寄せてムっとさせる。そりゃ無謀な挑戦だとは自覚している。だって、夜の街は出入りが激しい、地方から来る人だって一見さん立っているし、乱雑に入り乱れる世界にたったひとりで舞い降りて人っ子ひとり探すなんて無茶だ。
顔も写真でしか見たことないし、背丈だってどれくらいなのかわからない。そんな実父に会いたいと願う私は世間から見て馬鹿らしいだろう。
荒北靖友くんは箸で唐揚げをつまんで正直に言った。
「…無理じゃナァイ?本当にここに居るのか、確証はねぇんだロ?」
「まあ、確率的にはこういった場所が一番大きかったから」
父親が消える前、このあたりをよく行き来していたと母親から聞いている。もうあの人を見るのは嫌だと言っている母には申し訳ないけれど、私は会いたい。私はそんな母親の姿を思い出しながら生春巻きに箸を伸ばす。
「ふーん、どんな人」
「今は女の人」
「…」
間髪いれずに私が事実を述べると同時に、荒北靖友くんの箸は止まる。
一般的に考えてみて、男が女に変わるなんてありえないし気持ち悪いと思うだろう。しかも、その男は一度結婚をして父親になった経験がある。家庭を築いてこれからという時期に、やっぱり無理だと、自分には自分の人生を歩みたいという願望でいなくなったのだ。
口の中がすっきりした後に私は、顔を歪めず、飄々とした感じを保ちつつ嫌味を言う。
「私が言いたくなかったのはそういう理由」
「別に軽蔑するとか入ってねぇだろ、ただ驚いて言葉に詰まっただけだっつーの…いつから?」
「ん?」
「いつから、探してんのォ?」
疑問を投げかけられて私な記憶を手繰り寄せた。いつ、私は父親を捜索し始めたんだろうか。季節をたどっていくと、そんなに長くはなかったと再認識する。まだまだ探したりない。
「一昨年から、てか、自分の父親の出て行った理由が理由過ぎて、会って無責任だって言ってやりたいの」
「…それであんなに影薄くしてたのかヨ、バァカじゃないの?」
「言いたいだけ言えばいいわ」
「それに、男と遊ぶ必要だってネェくせに」
「情報を聞き出すにはもってこいだから、どう?これで聞きたいことは全部?」
「ハァ?バァカ。まだ聞き足りねぇよ、その父親の職業とか、顔つきとか教えろヨ」
荒北靖友は舌打ち混じりに言って、追加で運ばれてきたベプシを飲んだ。
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