Call me昼食を終えてうさ吉にえさを与えていると、靖友とミョウジさんはいつも話をする。だいたいは草食か肉食かの話。俺はどっちも好きだ。けど、今日は少しだけ険悪だった。
「なあ、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃナイ?」
「名前?どうして名前を呼ぶ必要があるの?」
と、言ったミョウジさんにブチギレた靖友はどこかへ行ってしまった。ミョウジさんは頭にハテナマークを浮かべて靖友が遠ざかっていくのを見送っていた。いやいや、待て、ミョウジさん。怒っている理由くらいわかるだろう、それほど鈍感なのか。
そりゃ、彼女はいろいろ理由があって人と交流することが少なかったから、人の感情を把握して解決することは周囲よりは疎い。けれど、これは気づくだろ。
「ミョウジさんそれない、ない。靖友は彼女に名前で呼んで欲しい珍しいデレを出したんだぞ?」
「前に靖友君って名前で呼んだらすごく怒られたからある意味トラウマ」
「…それはどんなタイミングで言ったんだ?」
「抱き着いた時」
「アウトだな」
寿一は何の話かさっぱり分からなくて、首を横に倒すだけだった。けど男っていうものはそういう押しに弱い。尽八もよくわかっているみたいで、俺とミョウジさんの会話に割り込んできた。ミョウジさんは突然湧いて出てきた尽八に驚いた。
「え、東堂くん?」
「ミョウジさん、いいかい。男っていうものはバカで単純なんだ」
「言ってて悲しくならないの?」
「だから、好きな相手には名前で呼んでほしいんだ。ミョウジも特別に感じないか?」
尽八がそういい終えた途端、ミョウジさんは少しだけ複雑そうな顔をしていた。視線はどこかへ向いていて、口を出さないで、むっつりと黙っている。俺が声をかけると考え事に集中していたあとのように、取り繕うように笑った。
「ミョウジさん?」
「ミョウジ、どうしたんだ」
「あ、ううん。なんでもない」
予鈴が鳴り響いて、俺たちは教室へ戻るとき、ミョウジさんはやっぱり何か考えている様子だった。名前で呼ばれるのが嫌いなのか、それとも靖友と何かあったんだろうか。俺は一人で考えるのも、答えが見つからず、今日は彼女たちの姿を見ることにした。一大イベントのようにわくわくさせていたら、授業も苦ではなかった。
待ち望んでいた放課後、俺の予想通り、ミョウジさんは靖友を待っていた。尽八と寿一を捕まえて彼らのやり取りを拝もうじゃないか、と誘って部室の隅にある窓越しに見ていた。
「靖友くんっ待って!」
お、出だしはいい感じ。靖友はビアンキを押しながらミョウジのほうを振り向いて怒鳴る。
「っ、ンだよ、ヤラセかよ」
「靖友君、お昼に東堂くんと新開くんに名前で呼ばれると特別って感じがするって聞いたの」
「お、おお。案外わかってんじゃねぇか。あのアホ共」
アホじゃないぜ、靖友。パワーバーを取り出そうとすると寿一に取り上げられた。スプリンターはエネルギー消費が半端ないんだ、頼むよ。靖友の照れた顔を見て俺は微笑ましいなと思っていると、ミョウジさんの雰囲気が徐々に変わり始める。
「けど」
「ンア?」
「私、靖友君に告白された後に一度も名前で呼ばれてない!」
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