長編 | ナノ


まだまだ続く、俺たちの道
「荒北とミョウジのペア、5な」


先生は赤ペンを握りながらそう言った。
何束にもなった課題の紙切れ、先生はそれを一字一句逃さずに見ている。私たちが何度も確認しあったから大丈夫のはず…。私と荒北くんは目を合わせてやったね、なんてアイコンタクト。でも、これで荒北くんとの接点はなくなって元の生活に戻ってしまう。文句ありげの瞳なんて出さないよ。

胸の中に自分のわがままを押し込んで前髪の隙間から、荒北君をのぞき見る。職員室を出て行って、荒北くんは私の頭を撫でてくれた。


「ミョウジ、飯食いに行くぞ」

「…?」


課題は終わったのに、荒北くんは今日も話しかけてくれる。

私はまんざらでもない顔をして彼のそばへと駆け寄る。ヒソヒソと自分の背後で陰口を叩くクラスメイトには目もくれず、私はただ彼だけを見つめた。たくましい背中をめがけて私は足をすすめる。


「なんで前髪切らねぇの?もういいだろ」


やっととなりに並んだと思えばそんなことを言う。私は首を横に振った。

だって前髪を切ってしまうと自分の瞳の色がわかってしまうから。横階段を下りる、危なっかしい足取り、前髪が邪魔くさくて見えないのだ。荒北くんは私のそんなどんくさい姿を見てはあ、っと重たくため息をついた。


「だったら俺といるときは前髪なんかで止めろヨ。鬱陶しい」


私より数段降りている荒北君は前髪を払って目を合わせる。あ、したまつげが長い。切れ長の目、荒北君の顔はっきりと見たのは二度目。沈黙していると周りの音すら聞こえなくなってきた。ふたりだけの世界。


「ミョウジ、靖友!そこにいたのか!」


大声で私と荒北くんを呼んだ新開くん。驚いて私はズルリと足を滑らす。このままじゃ、荒北くんを巻き込んで倒れそう、目を見開いたまま体は重力に従う。痛みを待ち受ける、その前に唇に柔らかい感触が強く押し付けられる。
階段の一番下に落ちたとき、荒北くんは私を抱きしめて衝撃に耐えた。どこか怪我していないか確認する前に、彼は唇に手を当てて顔を赤らめる。私の唇に当たったものが、荒北くんの唇だと理解したのは彼がもう一度押し当てたとき。