真実を知らない君が、笑顔で残酷に言い放つ「悪ィ、今日ミーティング入って手伝えねぇ」俺がバツが悪そうに言うとミョウジは、笑顔でわかったと返事をする。残された三日前に俺がこんなこと言うとは思ってもいなかっただろう。きっと一人、図書室で課題を作るんだと思うと見えない罪悪感に襲われた。
昨日、一緒にフクちゃん達と昼飯を食べていたらミョウジは東堂の事なんて一ミリたりとも覚えていなかったみたいだ。
それに、うさぎについてよく知っていたみたいで、新開は新開で話をよく聞いていた。フクちゃんがどうして、ミョウジに会いたかったのか、俺は今だにわからない。果たして、それは興味本位だったのか、俺が直々に申し出た相手に何らかの感情が湧いたのか。
暗くなった外の景色を見ながら俺は自分のバックを肩にかけて歩いていると、ふと、自分の視界の端で何かを捉えた。まさか、とは思ったが。
「ミョウジ?」
「荒北くん、どうしたの?」
「なんで、ここにいるんだヨ!今何時だと思ってんだ!?」
俺は驚愕を隠せないでいた。なんでこんな遅くまで学校に残っているんだよ、俺はミョウジの手をつかもうと早足になった。そのとき、ミョウジは何かを抱き込むような体制をとっていた。パントマイムが好きなのか、コイツ?はっきりしない彼女の行動の理由。近くまで来てみると彼女は嬉しそうな顔をして、弾んだ声。
「みて、荒北くん。もう一匹のうさぎさん、脱走してたみたい。ウサ吉のお母さん」
俺はその言葉に目を見開いた。
一度も新開は彼女にウサ吉に母親がいるとは言っていないし、それにこんなことを新開が聞いたら、きっと
「ミョウジ」
睨みつけるような目になっちまうけど、そんなの気にしてなんかいられない。
ミョウジは俺が名前を呼んだと同時に嬉しそうに、何もないその空間を差し出した。
「どうしたの?荒北くん」
「ミョウジ、俺には見えない」
嫌な風が通り過ぎる。彼女の息を呑む音が聞こえる。俺の切羽詰った呼吸はだんだん静まっていく。彼女の腕の中にあった空間は、何かを落としたように、そっとほどけて彼女は片手を自身の目があるだろう場所を掴んだ、ぐしゃりと前髪を掴む。
俺は左手で彼女が前髪を掴む手を、掴んでみようと伸ばす。けれど無情にもその手は宙を舞う。
「っ、課題出来たから明日渡すね。じゃあね」
走っていく彼女から香る匂いは純粋な、自然豊かな青い草の匂いだった。手を伸ばしたら、掴むことができたハズなのに俺にはできなかった。
「靖友、どうしたんだ」
「さっきミョウジが走っていったけど」
「…なんでもねぇ」
彼女にとって俺は周りのやつらと同等になってしまった。たったそれだけなのに、なぜか俺の胸はざわつき落ち着かない。
課題提出まで三日前なのに、こんなことでごたつくのは嫌。といったような真面目な考えじゃないのは俺自身、熟知している。俺は彼女に何をしてあげたら離れていかないだろうと悪あがきみたいな考えばかりが思いつく。あのとき、「ああ、俺にも見える」なんて嘘をついたほうがよかったか。
「荒北、浮かない顔をしている」
フクちゃんは俺を見て鉄仮面を崩さないで聞いてくる。ミョウジ絡みのことで悩んでると遠まわしに言うとフクちゃんは首をかしげて一言。
「なぜ、荒北はミョウジが嘘言を吐いていないのに、お前自身が嘘をついて合わせる必要がある」
嘘を言っていないのは確実だ、だったら。
「ミョウジは信じて欲しいと思ったから、苦手な人付き合いをしていたんじゃないのか」
信じるしかねぇだろ。
フクちゃんにありがとうとお礼を言って、明日のことを考えた。
***
「オハヨ、ミョウジ」
俺が声をかけると「これ、課題だから」と言って即座に立ち上がり逃げ出そうとする。そんなの許すはずがない俺の性。
狙った獲物は疲れ果てるまで追いかける性分なんでなぁ。がっしり、俺は彼女の片手を掴んで「座れ」とドスの効いた声で命令を下した。けれど、彼女は意志が強いみたいで首を横に振った。
「話がしてぇんだ」
落ち着いて俺が言い直すとミョウジは、ビクリと肩を鳴らして怯えている姿だけを主張させる。
「俺は信じる、テメェは嘘を付けるほど器用じゃねぇし」
ぴたりと震えが止まって、彼女は黙って座っていた椅子に座りなおす。
机の上においてけぼりの課題に一瞥しないで、初めてオレと彼女は向き合って話す。
まだ、目は見たことないけど、腹を割って話すなんてペアを組んで今日が初めてだ。先頭を切ったのは彼女。
「でも、昨日は見えないって言った」
「俺には見えない、けどお前は嘘をついてないんダロ?」
「嘘、嫌いだから」
「俺も嫌いだ、あと無駄にガンバれって言う奴。ミョウジがウサ吉の母親って言った時、前にはそういう体質だって直感した」
「…気持ち悪い?」
「どこがだよ、人それぞれそういうものあるだろ、バァカ」
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