短編 | ナノ

痛みを受け止めて
*レズビアン表現を含む


大事な私の親友が男に取られて、穴があいたように不抜けている。

自分でもわかる、呼吸するのがめんどくさくなって、返事するのもかったるい。授業もまともに受けてるはずなのに、右から左へ受け流すような感覚。

親友が取られたからこんな状態になるなんておかしいぞって笑われたっけ、その根源を作った男に。怒りたい気持ちなんて多かれ少なかれあったはずなのに、体が鉛のように重たくて、動かなかった。


「なんで」


だからなんで、あんたら傘さして仲良く歩いてんだよ。意味わかんない。いつもそのとなりは私だったのに、喋るとき、同意する時だって目を合わせて笑い合って、手を握って、泣いているときは慰めてくれたのに。

親友を恨みたくないという天使の試み、もうそんな我慢やめちまえよ、闇堕ちしちまえばいいと悪魔が囁く。

うるさいうるさいうるさいっ、気持ちと体がついていかない。

誰かが腕を掴んだ。


「何一人ぼっちでそこに立ってんだヨっ!」

「あら、きた?」


目つきの悪い、クラスメイトが私の腕を掴んで怒鳴った。なんで私怒られてんの?関係ないんじゃない?疑問がふつふつと湧いてくるけど、何となくこの掴まれた腕を振り払うことができない。もう少しこのままでいいと思っている自分がいた。


「寂しいなら寂しいって言えば済むダロ!バァカ!」

「…さびしいっていう一言で、私の大事な人を困らせたくない」

「ああ、言うと思ったぜ。だからお前を止めに来たんだ」


止める、なんのことを言っているんだろうか、クラスメイトは。

私には親友しかいらない、親友だけでいい、親友でこの世界が成り立っているんだから。

あれ、自分がおかしい。

今の言葉、本気で言っているなら、頭がイカレてる。もう、いいや。「あの子が幸せでいいじゃないか」なんて、適当な理屈であしらおうと構えていると掴まれた腕が引っ張られてそのままクラスメイトの体に引き込まれる。ギュッと力強く抱きしめられて、擦れ合う衣類の音が聞こえる。「虚ろな日々は過ごすんじゃねぇヨ、俺がそばにいるから」なんて、言う言葉も聞こえてたけど、聞こえなかった演技を続けた。