短編 | ナノ

嘘か誠か、白か黒か
朝起きたら知らない男が隣にいたなんて私の平平凡凡な人生の中に設置されるとは思いもよらなかった。知らない男はぐっすり寝ている、お金を置いてさっさと出て行こうと思ったけど、ここはホテルじゃなくてこの男のマンションだと分かった。この男は自転車に乗るらしい、部屋の片隅にきれいなフォルムのフレームとタイヤ。自転車雑誌が乱雑に置いてある。どうしよう、何をすべきなんだろうか。今まで彼氏もいなかったし、セックスだってしたことがなかったんだもん。あれ、ってことは昨日?今日で卒業したんだ。え、詰んだ。全裸出し、なんか変な痣もあるし。さっさと出て行こう、散らばった衣服に手を伸ばす。だが、なぜか腰のあたりに凛々しく太い腕が巻き付いてあった。逃げようにも逃げられない。

小さな唸り声が聞こえて、私が恐る恐る見ると男は目をこすって私を引き寄せた。そんな、どこのドラマだよ。私は失礼ながらも腕をほどこうとした、その時。


「あれ、起きたんだ。ねえ、もうちょっとだけ寝てようよ」

「どちら様ですか、その、私昨日のこと覚えてなくてですね」

「え、覚えてないの昨日の事?だって、昨日俺、えー…。ねえじゃあもう一回ヤったら」


何とも寝ぼけた口調で、とんでもない発言をする男の人。よく見るとその男の人は美男子で、ふわふわとパーマのかかった頭に、たれ目で、厚ぼったい唇。ときめく要素がいっぱいに詰まった男の人と一夜を共にしたなんて、どうしよう、明日背後からナイフ突きつけられてもおかしくない。男の人は私の肩を掴んでベッドに引き戻して首筋に吸い付いた。


「やめ、やめてくださっ」

「やだやだ、だっておめさん、おれのこと、勝手に捨てちゃうなんて」


色男はとうとう泣き出した。よくわからないけど、私は「じ、自己紹介からいかがですか」と誘うと、ぱっと顔を上げて嬉しそうに首を縦に何度もふった。


「俺、新開隼人っていうんだ。俺、おめさんのことずっと前から好きで、いつも見てたんだ。たまたま、お酒飲んで酔いつぶれてた時、よっしゃって思って、とりあえず話しかけたんだけど相手にされなくて、それで、べろべろに酔わせて、マンションに連れ込んで、その」

「ちょっと待って、双方の合意でセックスしたんじゃないの?」

「え、えっと…でも、気持ちよかった」

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