短編 | ナノ

はんぶんこ、
「今泉くん、ガリバー旅行記を読んだことがる?ある章にね、どうも考えが合わない二人がいたんだ。その時に思い付いた名案は、その二人の脳を二つに分け合うことだったのさ。妥当だと思わない?」

「まあ、そう思うけど。実際そんなことなんてできない」


目の前にいる女の考えること、俺は全く理解することができない。普段からしゃべる内容は、まず本のフレーズを使う。俺は本は読むけれどそこまで詳しくない。そしてだんだん俺が思っていることに近づいてくる。この女は俺が考えていることをすべて見抜いているんじゃないか怖くなる。


「そうだね、けど今泉くんは私の考えを理解できないんだよね?」

「ああ、お前のように博識があるわけでもない、お前のように饒舌ではないからな」

「…いつかは理解してほしいな」


そういって目の前にいる女は笑った。

部活を終えて家に帰ると、父の愛人の娘がいた。俺より二つ年上でどこか寂しそうな人だった。けど、ナマエは寂しいとか言わないし、泣こうとしない。それに、今泉なのは同じなのに俺のことは必ず「今泉くん」それか「お坊ちゃま」と呼ぶ。それも理解できなかった。俺とナマエは表現的には、異母姉弟だ。どこかは似ていてもおかしくないのに、どうしてこうもかけ離れた性格になってしまったんだろうか。俺は明日の準備をするために鞄を開けて教科書を取り出そうとした、だが机の上にはもう用意されていた。きっとナマエがやってくれたんだろう、礼を言うべきか迷う。


「私と今泉君の脳を半分こにして、理解しあえるようになりたいな」

「…俺とお前は異母姉弟だから、少しだけは理解できるかもしれないだろ。父は同じだ」

「けど、今泉君は理解できないって言ったでしょ」

「ああ。理解できない、だが互いに歩み寄れば、同じリズムに合わせて近寄れば可能かもしれない」

「…晩御飯、一緒に食べない?」


「ああ、俺もそうしたいと思っていたんだ」と、言うとナマエは花が開いたように笑ってくれた。晩御飯を食べに行くために俺とナマエは階段を降りる、一段一段大切に。

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