短編 | ナノ

だれ

天才と秀才には歴然の差がある。俺はこの方、長い間運動を続けてきたからそう言う意味はわかっているつもりだ。天才は誰からも憧れ、そして分け隔てなくもてはやされて暗くどす黒い嫉妬の念を抱かれ、秀才は周りが頑張ったわけでもないのに愛されていて、天才と比較された時、必ずとは言えないが正義と表される。天才だって努力していないわけじゃない、努力と生まれ持った天性のセンスと頭脳があるからこそ成り立つのだ。


「先輩、好きです。私と付き合ってください」

「うん、いいよ。じゃあ手始めにキスしよっか」


俺の幼馴染は本当にバカな奴だと思う。

こんな、どうしようもない俺にどこまでも、遠くてもついてきて。俺の背中を追いかけて周りからなんと言われようと大木のように力強く根付いて、泣きたい時に笑って苦しい時にはしゃいで。拗れた俺を見捨てることなく傍にいて、俺の代わりになんでもしてくれて。でも、いつの間にかそれが俺にとって当たり前になっていた。

デキた幼馴染は、当然俺のそばにいると思っていた。

この言葉を聞くまでは、普通の女で、俺の唯一の心を許せる相手。

部活が終わって、あいつはマネージャー業で残っていた仕事を片付けているのかと思ったら、後輩のマネージャーに付き合って欲しいとせがまれているのだ。それも同性だ、きっとあいつなら柔らかい言葉遣いでやんわりと断るんだろう。告白を受けているふたりの空間に入ることなんて俺にはできない、その場にしゃがみこんでいたら思わぬ方向へと話が進んでいった。


「え、い、いいん、ですか。気持ち悪いと思わないんですか」

「そうと思わないわ、あなたがいい子だって私、知ってるのよ」


俺の幼馴染は、いったい誰になってしまったんだろうか。

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