短編 | ナノ

はじめてにアンダーライン
 レズビアン表現を含む



「一度はまったら抜け出せないってこういうことだね」


初めて付き合った、その女が忘れられない。新しい恋をするのが大事だなんて、生易しい慰めなんていらない。俺に今一番欲しいものは彼女。そう、初めてを全て捧げた彼女がほしい。

甘いお菓子よりも、彼女がくれたドロドロにとかした甘いキスがほしい。初心っぽいキスじゃなくて、噛み付かれるようなキスがいいんだ。あ、ナマエがいた。捕まえなきゃ。


「ナマエ、ヨリ戻さねぇか?」


隣にはナマエの新しい大事な人がいた。図々しいにも程があるかもしれないけど、そんなのどうでもいい。普通を覆している彼女ならなおさらだ。

女の子なのに、女の子を好きになるなんて気持ち悪い。

けどそんな彼女にはちゃんと俺を好きになるスキルだってあるし、初めての男だし。どうでも良くなってきた理屈を全部押し詰めて、ナマエの腕を掴んだ。


「離して、新開」

「俺の名前呼んでよ、ナマエ」


俺の名前を呼んで。

なんて甘えてみればナマエは迷惑そうに顔を歪めて、俺が掴んだ手を振り払おうとするけどかないっこないことなんて知ってるだろ?ああ、可愛い。となりでぎゃあぎゃあ騒いでいる女の子に俺は冷笑を浮かべて「おめさんには関係ないだろ?さっさと失せろ」と言えば、涙を浮かべて脱兎のように走っていった。

ナマエは俺が掴んでいない方の手を伸ばして、あの女の子の名前を叫んだ。


「なんであんなひどい言い方するの、私はあなたと付き合うつもりは毛頭ない」

「俺の初めてだって全部奪って言ったのに、手のひら返すなんておかしいんじゃない?」


静まり返った俺と彼女のあいだには、先ほど逃げ出した女の子の走り去る音だけが響いていく。

宙を舞う彼女の片手も俺は捕まえ抱きしめるために引き寄せると、反抗し始めた。渾身の力を込めて俺から逃げようとするけど、そんなか弱い力で何ができるんだよ。びくともしない俺に絶望的な表情を浮かべて「お願い、離して」と俺に残酷な言葉を吐きかけた。


「付き合ってくれるんだったら、俺放してあげてもいいよ」


毒牙が刺さったように俺は全く彼女から抜け出せない。