短編 | ナノ

知ってるくせに、知ってるのに
私は家族の中で一番劣っていて、血のつながりがないんじゃないと思うくらい、顔貌が違う。兄のように堂々と振舞うことなんて絶対したくない、というほど頑固だし、美形と呼ばれるような顔じゃないし。毎日嫌になる、振り返ってファンクラブの人たちはクスクス気味の悪い笑いを耳に残していく。どうして私はあんたの妹になんかなっちまったんだよ。


「東堂ナマエってお前か、お前の兄貴が呼んでんだケドォ」


目つきの悪い男の人、たしか荒北先輩だ。私はその人に言われて眉間にしわを刻んだ。わざわざフルネームで呼ばなくていいじゃないか、それに東堂っていう苗字は嫌いなんだよ。荒北先輩は律儀に大っ嫌いな兄がいるところへ連れて行ってくれるようだ。後ろを歩こうと思っていたら、彼は私が足が遅いと勘違いをして待ってくれている。


「直接本人が呼びに来ないことに、貴方は疑問に思わなかったのですか」

「アァ?そりゃアイツが手が離せねぇから、テメェがメールも電話もでねぇから悪いんだろうが」

「何でもかんでも私が悪いんですね」

「アァ?そうとは言ってねぇだろうが。勘違いすんじゃねぇヨ。それとも俺がお前を迎えに来たのが気に食わねぇのかァ?」

「どうやったらそんな話に飛び火するんですか」


めんどくさい男だなぁ、と口に出すとゴツンと荒北先輩から拳が振り下ろされた。粗暴なところはヤンキー世代から変わっていないらしい。荒北先輩と足並み揃えて歩いているはずなのに、兄の姿は一切かぶらない。兄は私ととなりに歩くのを嫌がった、でも。


「ちょ、な、なんで泣くんだヨ」

「別に、泣いてないですよ」


突然泣き出した私に荒北先輩はワタワタと慌て始める。冗談とか嘘を言えるような高度技術は持っていないので簡単に彼を黙せることはできなかったけど、拳だった手は優しくて、暖かい。何度も私の頭を撫でてくれる。「慰め方とか、俺はうまくねぇんだヨ。これくらいで勘弁しろよ、ナマエちゃん」と、名前を呼んでくれた。

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