短編 | ナノ

口で君をほどきたい
私には好きな人がいる。目の前に、頬杖をついて外の景色を眺望している金城君だ。私がときめいた理由は金城君の目力。よく父が言っていた。人をまっすぐ見る奴は自分自身にやましいことのない人間であり、そして相手をよく知ろうとしている心の表れだと。金城君はほかの男と違って、ちゃんと私の目を見て話す、そんな誠実さにひかれた。
けど、私自身、口がうまいわけじゃないからここまで仲良くなれたのは出席番号のおかげだって信じてる。ふと思ったことを口にしてみた。


「金城君ってすごい目力あるよね、親もそうだった?」

「目力か…そうだな、父親は厳しい人で、母も甘やかすような人じゃない」


私の突拍子のない話に目を見開いたけど、笑って答えていた。愛想よく笑えなくて「ふうん」と相槌を打った。そんなとき「ミョウジも目力あるよな」と、金城君は答えた。


「まあ、いろいろ理由はあるけどね」


「?理由」と、おうむ返しした金城君。私は面白おかしく笑っていると金城君はさらに困惑した。だから私ははしゃぐようなそぶりを見せないで静かに教えた。


「昔、父か言っていたんだ。目力のある人間は信用あるって」

「ほお。と言うことは、ミョウジは俺に信頼しているとうぬぼれていいんだな」

「ええ、金城君は信頼における人間よ」


自慢げに笑っていると、金城君からの返事が途切れた。もしかして気を悪くさせてしまったかもしれない。目をつぶって笑う癖のある私はそっと目を開いた。金城君は少しだけ、顔が赤らんでいて、口元に手を抑えていた。むせたのかな、なんて思ってると金城君は私の目の前に静止を表す手をかざす。ちょっぴり待っていると、徐々に元の顔色に戻った。


「ミョウジは面白いな」

「面白いって?」


「俺のことを真正面に口説いてくるからな」と、金城君は笑い交じりに口にした。今までしてきた言葉は金城君を口説くのに匹敵するのかと思ったけど、彼にはそう思えたみたいだ。
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