短編 | ナノ

地を這いつくばる蛇たちよ

「別れてほしい」


私が先月そう言ってから金城はおかしくなったのだ。金城は大学での空き時間を見つけるとひっきりなしに連絡をしたがり、二人で一緒に暮らそうと言って勝手に私の暮らしているマンションから荷物を移動させていたり、機嫌を取ろうとしているのか彼からのアプローチが増えた。

別れたい理由は一つ、彼の浮気現場を見たからだ。彼のような誠実な男にはそんな浮ついたことはないと思っていたが、盲点だった。彼は後輩の女の子と親密な関係になっていた。決定的瞬間は荒北君と食材を買いに歩いているとき、後輩と路上でキスをしている金城の姿を見たのだ。ちゃんと荒北君という証人がいる。グズグズになった関係を離脱すべきだ。


よく考えると、私がなぜ金城君と付き合えたのかミラクルすぎてわからない。私は元来、付き合ってくれと言われたらイエスと答えるくらいの人間だ。私に好意を持ってくれているんだ、無下にするのはよくない。だから誰かと付き合っていてもイエスと答える。そんな女となぜ、金城君は付き合おうと思ったのか、イッツミラクル。


「ナマエ、今日は何が食べたい?」


このまま延長させておくのは彼にもよくない。ミラクルで付き合った女とただれた関係を保つよりは、かわいらしい、純真な後輩と付き合った方が何百倍、何千倍もラッキーだ。


「金城、今日は別々に食事しない?」


表情をうかがいながら金城に聞くと、金城はムスッとした。


「ほら、時には距離を置いた方が」

「そのまま逃げる気だろう。お前のすることは読めている」

「いや、逃げないって」

「笑っているときはいつも嘘をつく」


金城はそう言って私の手を握って帰路をたどる。私の歩幅を合わせないで歩くから、少しだけ駆け足になってしまう。ぎゅっと手を握る力が強くなったので私は金城のほうをみた。


「別れたいという嘘なんてつくお前が悪い」

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