短編 | ナノ

図書室の美男子
図書室によく、イケメンがいる。そのイケメンは私と同い年、と言っても私は同い年と仲良くできるスペックを持ち合わせていないので、初めて出会ったときは警戒していた。

軽くそのイケメンについて語ろう。一年の時は、茶髪のストレートで好印象を受ける男の人だった。目はくりくりしていて、厚ぼったい唇、人懐っこそうな感じ。よく推理小説を借りていて、ちょっぴり汗臭いからして運動部だと分かった。二年生になると、少しだけ頻度が減った、同時に本よりも、女の子と遊ぶことに幸せを生み出したのか、傍らに常に違う女の子がいた。三年生になってからは変わった。髪の毛はパーマをかけていて、身長もぐっと伸びていた。筋肉もついている。インターハイのあいさつのとき、ステージに立っていて、あ、自転車競技部なんだと知った。三年かかってこれくらいしか知らない。
と、いうよりこれくらいか知らなくていいと思う。一方的に知っているわけだし、これから何かに発展するとは思っていない。

今日も私は飽きずに本を読み漁る。クラスに居てもつまらないからね、話し相手もいないし。

さて、何を読もうか。森鴎外のような古文語は苦手だから、川端康成でも読もうか。しかし、外国推理文学集があった。よし、これにしよう。分厚い一冊の本を取り出すために人差し指を使って本の上の部分を触る。


「これ、よく読むの?」


ぬっと私の隣に出てきたのはあのイケメンだった。驚いて、目を丸くしていることに相手も驚いていて言葉が一瞬詰まった。なんで、こんな地味な私に話しかけるんだ、あれか、罰ゲームか。適当に返事をしようと思ったけれど、茶髪のイケメンが矢次に言葉を発した。


「君、よく図書室にきて上限いっぱいまで本借りていく子、であってるよね?」

「あ、あってま…あってる」


にこやかに私は答える。あくまで、私は愛想のいい一人の生徒として。まあクラスに戻れば不愛想に変貌するが、たった数分だけ話すだけなんだ。これでいいだろう。


「あ、別に変な意味で声かけたわけじゃないから安心して。リラックスして」

「ごめんね、ちょっとテンパってて」

「…俺は本物のおめさんに話しかけたんだ、これ、一緒に読まねぇか?」


推理小説をよく読む相手と話すなんて、心臓に悪いかもしれない。