短編 | ナノ

ポンコツは野獣に咥えられた

そんなにおかしいかな。私がポイントガードになるのって。

「アンタがポイントガードになったら一気に叩きのめされるような気がする」

なんで。

「あのね、アンタは自分が思っているほど器用じゃないのよ?それなのに…」

わかってるよ、下手くそだってくらい!


汗まみれになって全身全霊で取り組んでいたバスケがこうも面白くないものに見えるなんて、私はこんなにも冷たい人間だったのか。冷徹さなら、試合中の敵にだけ醸し出していた。普段から映る景色が灰色に見える。怪我を理由に次々と部活を辞めていった彼らにもこんな感覚で数日を過ごしていたんだろうな。なんて思ってみたり。つまらなくなった人生にはあっとため息ついて、顔を上げた。

青い空が流れているけど、額縁に収まった絵画のようだ。ああ、ドラマで出てくる空にも見える、ベルトコンベアーのように流れて、止まることを知らない。自分が置いていかれる。

こつん、と自分の足に何かもっふもふした動物の鼻先が当たったと思われる。徐々に視線を自分の足元に寄越すと、そこには黒い猫が一匹擦り寄っていた。動物は比較的苦手な私はその猫から足を退かす。けれど好いているのか、また近寄る猫。


「猫、嫌いなのかヨ」


サラサラの髪の毛に鋭い目つき、ひねくれものだと表さんばかりの曲がった口、細身はへにゃりと丸めている。私を見るなり、きつい目つきは緩められた。


「…うん、動物自体が好きじゃないの」

「フーン。何してンノォ?」

「…何もしてない、暇つぶし」

「へぇ、随分と長い暇つぶしなんだナァ、ミョウジナマエチャン」

「なんで私の名前知ってるの?」


ドカっと盛大に座る男子生徒は私と打って変わった態度をとる。猫に手をさし伸ばして自分の足の上に乗せた。顔に似合わないその動きにポカンと口を開けていると、彼は私の頭をがしりとカラスのように掴んだ。


「授業出てこねぇの?保体、あと一回休んだら留年だケドォ?」

「んーどうしよっかなぁ」

「ッチ、なんだヨその適当な返事」


猫と戯れながら男子生徒は私の返事に腹を立てた。短気は損気というものだ、若者よ。まあ、こんなところでサボって怠惰を貪っているわけにもいかない。このままだと本当に留年しちゃうかもなぁ、あ、いいや。留年なんてめんどくさいからいっそ学校辞めちゃおう。


「お前さ」

「ん?」

「昔の俺みたいだナァ、あの時の腐臭がする」


いわれ放題だなぁ。男子生徒をもう一度見ると、猫なんてもういなくなっていて私の方をニヤニヤとなにか企んでいるような笑。この笑顔、私が勝負時にするあの顔だ。人差し指で自分の頬を軽く掻いて「ソーデスカー」なんて気の抜けた返事をすると、バシっと私は背中を叩かれた。痛いって、ピリピリする背中を自分の平手でさすっていると、男子生徒はシャキッとしろよと、小馬鹿にしている。


「俺がテメェを変えてやる」

「は?何言っちゃってんの」

「いい獲物見つけたら、最後まで粘ってでも捕まえんのが俺だかンナァ」と言っている男子生徒の雰囲気は飢えた獣同然だった。

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