短編 | ナノ

愛なんていらないから美しいと云って
俺の大事な彼女は火事をきっかけに顔半分にやけどの跡ができてしまった。ただれたわけじゃないけど、赤い痣のようなものだ。可哀想だった、痛々しい、あんな姿は可哀想で仕方がなかった。触ってあげるのも、優しい声をかけるのも考えたけどそんなの彼女の心をえぐるだけだった。

なぜかというと、彼女は美しいものだけを認める性格だったからだ。赤い、痣のようなものに覆われた顔半分を初めて見た時の彼女は絶望して声を上げることもなかった。俺は別に彼女の変わった姿を見てもどうとは思わない、拒絶しようなんて思わない。


「どうしたの、金城君。じっと見られると恥ずかしいな」


前までは切っていたけれど、だらしなく顔半分を隠している前髪。へらへら人を小ばかにするような笑いを浮かべるようになり、卑屈になった。前までは素直で、優しかった彼女は半分だけ燃えてしまったのだろうか。
俺はレポートを書きながら彼女の事を思っていたら、不思議なことに無意識に彼女を見つめていたらしい。彼女は首を傾げた。


「いいや…少し、お前のことを思っていただけだ」


「くだらない」と、その一言で片づけられてしまった。俺と彼女は付き合っているはずなのだが、彼女はそっけない。個人的にはもっと近づきたいのだが、彼女はそんなモノはいらないらしい。まるで俺が片思いしているようだ。


「くだらないとは酷い言い方だな。俺はお前を愛しているのに」

「よくもそんな恥ずかしげもなく陳腐な言葉を言えるわね」


そういいながらも彼女は、少しだけうれしそうだった。けど彼女は愛しているという言葉よりも、違う言葉が欲しいだけだと思える。


「なあ、もっと振り向いてほしいと思っている俺に何かアドバイスをくれないか?」

「そうね、じゃあ、愛しているという言葉より私は美しいと言って欲しいわ」


彼女の本音を聴けたような気がした。俺は彼女の顔半分を隠している髪の毛をそっと避けて「お前は美しい、誰よりも。どんな姿をした人間よりも。お前は美しい」と言ってみると彼女の二つの瞳が俺を映し出していた。

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