短編 | ナノ

I want you/good-by
*レズビアン表現有




「別れたい」という言葉を彼に何度も言ったけどわかってもらえない。最近気づいたのだ。彼と付き合ってても幸せなんて一つもないってこと。彼と一緒に居てもドキドキなんてしない、友達から借りた恋愛小説を読んで驚愕した。これが愛で、これが恋だと。でも私にはそんな気持ちを持ったことなかったし、彼氏にその気持ちをぶつけたことだってなかった。そもそも、男に対してそんな気持ちを持ったことがなかったのだ。手が重なったことでドキっとしたことなんてない。あ、でも女の子だったらある。

回りくどい言い方だったけど、私は生まれた時からレズビアンだったのだ。


「だから、別れないって。何遍言ったらわかるんだよっ」

胸ぐらをつかまれて、勢いと同時に部室のロッカーに背中をぶつけた。鈍い痛みと、鋭い痛みが背中に走る、顔を歪めてもう一度私の胸ぐらをつかんだ相手を見ようと視線を動かしたとき、頬に違う痛みが走った。数秒だけ温かい、人の肌がふれてすぐに熱い痛みが広がる。ああ、私新開君にぶたれたんだ。彼の顔を見るなんて、今の私にできるはずがない。


「俺はお前のことを本気で好きなの、わかる?」

「で、も。私は本気になれない」

「そんなのあり得ない、俺とお前は運命の人なんだから」


これ、運命の人。この言葉に新開君は執着している。
運命の人、それは太古昔、韓国の人々は相性がいいと、その相手を運命の人と位置付けたのがきっかけらしい。しかし、私にとって運命の人は彼じゃないことだけはわかりきっている。


「私は女の子が好き」

「この期に及んでそんなバカげたこと喋っていいのか?俺、結構さっきの言葉に腹立ってんの。こうしてお前を近くにして男の俺がだまってられると思う?」


新開が本気のトーンで言ったので、私は顔を青ざめた。キスを迫ってくるのは日常的で、私がやんわり断って逃げてきた。しかし、状況が悪い。昼休みの間の部室には誰も来ないし、近くを通る人なんて人っ子一人としていない。
お願い、誰でもいいからここに助けに来て、そう願ったけど新開君の顔は近づく。


「俺はさ、運命の人を手放すほど馬鹿じゃないんだ」