短編 | ナノ

好きな人って、さ
授業が終わるのはまだまだ先、けれど自分の携帯にメールが来たと反応が出た。このクラスじゃない、別のクラスの男の子からだ。愛を囁くメールでも部活の連絡でもない、ならほかの生徒だったらほかに何と答えるだろうか。嫌な予感を抱えながら私は携帯を先生に見つからないように開いて受信ボックスを開いた。

新開くんだ。うわぁ、突然自分の胃腸が痛くなったような気がした。文章の中身を見ると、単純にメロンパン二つ買ってきてのこと。そんなの自分で買いに行けよ。心の中で盛大な悪態をついた。終業チャイムがなる五分前に財布の入っているカバンを開ける。

先生が授業を終わらせると、私は軽い足取りで購買へと歩む。ほかのクラスは今終わるところだと表すような雰囲気。

「お姉さーん、メロンパン二つにいちごオレ1つください」

ひらりと片手を上げて注文するとすぐに出てきた二つのメロンパンにいちごオレ。慣れた手つきで財布から挙げられた金額を払った。部室の裏にいつもいるので、体の向きはその場所に向ける。



「新開くん、好きです」

いきなり、自分の耳に飛び込んできた可愛らし、コマドリが囀るような声。告白シーンに堂々と入るような破天荒さはないから、その子がいなくなるのを待つ。
そういえば、どうして私は新開くんにあれこれ買って来いと言われたり一緒に帰ろうと言ったりするんだろうか。私は彼にとって誰なんだろう。

「ごめん、気持ちは嬉しいけど俺は好きな子いるから。付き合えない」

「好きな子って、だれ」

「それ教えておめさん、どうすんの?」

押し黙った女の子はどこかへ行ってしまった。私が隠れていたところじゃなくて反対方向に消えてしまった。タイミングよく、たどり着いたような素振りで彼の目の前に現れると、さっきのような冷たい声じゃなくて、ポカポカ暖かい優しいテノールの声。メロンパンふたつ、彼に手渡すと私が握っていたいちごオレを欲しいとせがんできた。

「欲しいなら、これから私が聞く質問に答えてくれる?」