短編 | ナノ

アブノーマル
「荒北君ってバイセクシャルなの?」

「そういう質問って普通、部室でしないよネ。空気呼んでヨ」

「ごめんね、気になったらすぐに聞きたがるの、私」

部活動が終わって、自主練をしている人が何人かいた。けれどのその人たちも次第に帰って、鍵当番の私と遅くまで残っていると提唱がある荒北君だけが部室にいた。荒北君は汗を拭いて、一枚はさんだロッカーの後ろで着替えている。別に男の裸を見て騒ぐほど純粋ではないから、気にならないけど荒北君は気になるらしい。話は変わるが、冒頭で荒北君に質問した理由を答えよう。とある噂で荒北君が男の人とキスをしていた、と私は聞いた。

「じゃあ、サ。ナマエチャンは俺がバイセクシャルなのか、それともゲイなのか、普通なのか考えてヨ」

ロッカーの奥で衣服が重なりあう音と、荒北君の声が聞こえた。荒北君は、そう、普通の男の子と比べて髪の毛が長くて色気がある。美意識が高くて、少しだけ女の子に近しい感じがする。けど、荒北君は時々物騒というか、驚くような発言をするから実際腹の中で考えていることはわからない。福富君をみて「福チャンの周りにまた××がうろついてる、俺が駆除した方イイのカナ?マネージャーサンはどう思う?」とか、黒田を見て「黒田にそんな綺麗な足は似合わないからさ、俺にチョーダイ?」とか、ありえない発言を連発。ごそごそと、ロッカーの向こう側で着替えている音がやけに耳に残る。

「荒北君のことはよくわからないよ、腹の中で実際何を考えているのかは気になるけど」

「けど?」

「知りたいと思う反面、知りたくないって思ってる」と、答えると「ふーん」と味気ない返事が聞こえた。実のところ、そろそろ私は帰りたい。明日、数学の小テストがあるらしいので勉強しなければならない。がちゃんとロッカーが閉まる音が聞こえたので私は立ち上がって鍵を手にした。

「ねえ、ナマエチャン?さっき言ったことの返事だけどサ、俺は普通の男子高校生だヨ?」

荒北君は鞄を持って私に近づいて言った。そうか、やっぱりそうだよね、噂なんてでたらめの塊なんだから。私は安心して帰ろうと思った瞬間、足元に衝撃が走った。荒北君のカバンが直撃したのだ。ふらりと尻餅をつくと荒北君は笑っていた。口をぽかんと開けて、私は自分の置かれている状況が把握できなかった。

「普通の男子高校生なんだヨ?部室の中で、二人っきりなんていうチャンスはめったにないんだから使わないやろうなんているわけないじゃん。たとえ、ナマエチャンが俺のこと、キョーミなくても俺にとっては心底どうでもいいわけ」