短編 | ナノ

Lorelei
小さいときから歌しかなかった。歌を歌うしか能がなかった。だから、貧乏ながらも着実に歌を極めてお金を稼いでスポンサーを探した。私の実力が認められて、奨学金を得て箱根学園に入学し、バラ色の人生を迎えていた。だが、バラ色の人生は灰色の青春へと変わっていった。

「お前の歌声は本当に素晴らしいものだな。さすが黒髪のローレライと言ったところか」

この金髪の仏頂面の男のせいだ。この男は何かと私に小言を言ってくる。お前は姑か。この男、福富寿一は成績優秀で、お金持ち。私が嫌う人間の検索ワードに匹敵している。今日も隣の席で私を容赦なく貶す。箱根学園は本当にイイコチャンばかりで、充実していますといううたい文句はどこへ昇華してしまったんだろう。それともあれか、箱根学園って種類があるの?箱根学園Aとか、そうなの?

「福富君、ローレライっていう意味知ってて私に言ってるの?なに?ケンカ売ってるの?」

「いいや、喧嘩を吹っ掛けてはいない。お前のために喧嘩を吹っ掛けるほど俺は暇じゃない」

「オイ、どういう意味だ」

掴みかかってやろうかと思ったけど、福富のスタンド、荒北靖友が構えているので私の悔しさは倍増した。あの××、いつか××して××してやる。覚えておけ。私は拳を机の上に打ち付けてイヤホンを取り出した。ウォークマンを取り出して練習曲を聴こうと思ったらなぜか背中をたたかれた。痛いな、ゴラ。

「ミョウジ!練習曲を聞くより会話を楽しもうではないか、想像力が偏ってしまうだろ」

「アンタに心配される必要はない、あ、巻ちゃんみたいな雲が見える」

「どこだっ!」

東堂はどうしてこんなにちょろいのか不思議でたまらん。やっと曲が聞けると思って耳に欠けようとしたら今度は新開が私の肩をたたいた。差し出されたのは「福富寿一と喋る券」だった。丁寧に破り捨て解いた、この券がなかったら喋っちゃいけないみたいなルールを生み出す権利はこの男にはない。「不必要よ」と言うと、少し驚いた顔をしていた。さて、曲を聴こうと思ったら今度は荒北靖友が大声を張り上げた。今度は何なんだ、私の隣はどうしてこんなにうるさいんだ。

「東堂!新開!フクチャンが萎れていく!全力でアシストすっぞ!」

「チャリ部うるせぇ!」