うまくいかない 茹だるような暑さに顔を歪めて汗を拭った。けれど、止まらない汗、額を通って睫毛にはじかれることもなく目の中に入ってじわりと広がるくすんだ痛み。無理やり目をこじ開けて視線の先をよく、凝らしてみると彼がニヤリと笑って踵を返す。
嫌いな人がいます。
その人は私が片想いしていることを知っています、この気持ちを届けることができないことも知っています。
嘲笑って「ざまあみろ」って手を叩く。
脱色したその髪の毛が嫌いです、あなたの目つきが嫌いです、片想いをしている相手にベタベタとしている姿が嫌いです。
「嫌い、なんです」
「ふーん、そ」
「答えたじゃないですか、だから退いてください」
「はあ、つまんないの」
部室に置いてあるベンチの上に私は嫌いな男に唐突に押し倒されて「荒北さんと俺がいるとき、どう思う?俺のこと、どう感じる?」と、吐息混じりに囁く。
自分の耳をかきむしりたいほど気持ち悪い。
質問に答えたら私の上から即座に退いてくれると契約を交わしたので、私ははっきりと先輩サマに申し上げた。満足げに笑って、立ち上がり嫌いな男は個人ロッカーから制汗剤を取り出して体に付ける。
「つまんないとかの問題じゃありません」
「俺、あんたの先輩なんだけど」
「知ってます」
「あ、っ知ってるんだ。だったら先輩命令は絶対だってことも分かってるよね」
「公私混同は禁物です」
「あーあ、やっぱアンタつまんない」と言って嫌いな男は出て行った。
嫌味を込めて私は嫌いな男のロッカーを殴った。ガシャンとロッカーの開閉口の圧迫されて鳴り響く雑音が私の怒りに火を灯す。
私の嫌いな男がそんな姿を見て小さく舌打ちしているのは知らなかった。
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