短編 | ナノ

先輩後輩
俺はあの女に嫌われてる自信がある。なんでって、そりゃ周りもわかってんだろ。

例えば、体育の時間俺と同じチームになった途端、笑ってた顔がかっちこちに固まって青ざめて、フォローの言葉をかければ何度も頭を下げて謝るんだよ。俺はどっかの野獣と違って怒鳴ったりはしねぇよ、バカ。
あ、あとは…前の家庭科実習の時も俺が野菜を切る係になるからお前は俺のアシストしてくれよ、と親睦を深めるために提案してみたがあの女は青い顔をして首を横に振って「無理無理無理無理、私絶対失敗する、ごめんなさい、すみません、生きててすみません」だから、な。


「俺はあの女に嫌われてると思うんですよ!」

「なんでそれを俺に相談すんダ」


目の前には俺が供物として供えたベプシの山。
ベプシのあいだから見えるのは携帯をいじりながらも話を聞いてくれる頼りになる先輩、荒北さん。先程から俺の目の前では適当に聞き流している素振りを見せているが、文章を打つ姿でも液晶画面を触ることもない、ただ眺めているだけ。義理堅いって本当みたいだ。荒北さんはなんで相談相手を自分に選んだのか疑問を抱いているようだった。


「荒北さんならピュアな気持ちを分かってくれるかと思って」

「ンなこと恋愛マスターの東堂とか、恋愛ハンターの新開に聞けェ」

「あの人たちは次元が違います」

「なんでテメェはまともな判断できるのにこういうことには滅法弱いンダヨ?」


頭を掻き毟る姿を居ればぼーっと見ていた。自分で言うのもなんだが、荒北さんよりは柄は悪くないし、愛想だっていい。解けない問題、いいや壁にぶち当たっていることに欝になりそうだ。はあっとため息をついてみると、ベプシの向こう側から声がした。


「お礼は、お前が輝きすぎてその子が可哀想に見えるんだけどナァ?エリートにはわかんねぇか」

「俺は福富さんや東堂さんみたいに輝いている自覚はありませんけど」

「…無自覚なスターは近づきにくいって言ってんだ気づけバカ」