短編 | ナノ

明日が怖い
「きっとこの気持ちは誰にも共感できないわ」


ボロボロと涙をこぼして、それを青色のパーカーの袖でぎゅっと目元を抑える女性は俺に言った。

嗚咽がかすかに聞こえるけれど、俺はそんな一人で、寂しそうな女性を慰めることなんてできるだろうか。腕を伸ばして、頭を撫でてやったり背中をさすってやったりできるだろうか。答えは一択、できない。なぜなら、彼女はなぜ泣いているかわからないし、俺は彼女が泣くことに戸惑って言葉も出ないのだ。


「貴方は、器用で世渡り上手で愛されているもの」


目元は青色のパーカーで隠されていて、壁に沿ってゆっくりとしゃがんで顔を見せない。震えている肩に俺がふれたら壊れてしまいそうだ。ようやっと自分の口が開いた。


「一人で泣くな、俺がそばにいるだろ。もっと傍によって泣いた方がいい」

「わかって、ないな、金城くんは」


かすかに、彼女が笑った表情が見えた。

やはり目は見えないけれど、口元がかすかに見えた。また、彼女は嗚咽を漏らしてそれに耐えるように下唇をかみしめる。力強く下唇をかみしめすぎると唇が荒れてしまう。俺は彼女の様子をちゃんと見ようと屈んだ。


「俺たちは沢山の苦難を乗り越えて今ここに居る、弱音を吐くなら仲間の俺に言ってくれ」


小刻みに震えて、こらえているような姿に俺はやっぱり理解できない。どうしたらいいのか、途方に暮れる。高校からの付き合いだ、支えてやらねばとは思うが泣いている女性への慰め方は型にはまりすぎて嫌われそうだ。

目に映ったのは彼女の長い髪の毛。なでて、みるか。



「明日が怖い」

「え」


髪の毛に手を伸ばしたときに、彼女が口から出た言葉。明日が怖い、ってどういう意味だ。


「明日が怖くて、苦しい」


彼女は悩みを直球に投げかけた、一体この言葉にどんな気持ちを込めてるのかわからない。