短編 | ナノ

ガサツ
名前を呼んでくれるというのは、恋人同士なら嬉しいらしい。
ちゃん付けもしないで、君付けもしないで、それが本物の恋人。けれどそんな大して差なんてないだろう。心がつながっていればもういいじゃないか、めんどくさい。


「ミョウジはそういうところがガサツなんだ。乙女心はないのか」

「東堂には、そういう気持ちが分かるのか?」


恋愛マスターでもない、ただのナルシストである東堂にそう聞いてみるとはあ、っとため息をつかれた。どこがダメなのかもう一度聞いてみようとしたら、東堂が先に口を開いた。


「もし、お前の彼氏のあいつがほかの女の子とをちゃん付けもしないで呼んでいたらどう思う?」

「どうも思わない、ただ気持ちだけがあれば十分」


瞬きしないで一言で返すと、また一つため息をついた。

首をかしげて私は東堂を見つめ直すと、扉が開かれたので視線をそちらへ向けた。そこには新開が立っている、私と東堂を見るなり眉間にしわを寄せて厳しい顔つきに変わる。私は立ち上がって新開に近づいた。

新開は私が近づけば近づく分だけ不機嫌オーラを撒き散らす。


「隼人」

「ゴッフ」

「名前で呼んだら嬉しいか」


咥え始めたパワーバーを一瞬にして砕き伏せた。名前で呼んだだけなのに何故かこんなにも動揺するなんて予想外だ。
真剣な眼差しで新開を見ていると、何を吹き込んだんだ、と言わんばかりの視線を東堂に向けているが、知らんぷりを続けている。

私の質問なんてどうでもいいらしい。諦めて自分の作業を進めようと踵を返す前。


「ナマエ」


自分の名前が呼ばれて私は振り返る。嬉しいとかどうとかの問題じゃなかった、名前を呼ばれると自分自身のモチベーションが上がるというか、胸の高鳴りを認識させられる。