短編 | ナノ

汚い三角
「恋愛とか興味なさそうだな、お前って」

「…ほげー」

「なんだよ、その気の抜けた返事は。だから、お前には愛とか、恋とか興味ないだろって」


そんなことあるはずない、バァカだな。新開って。

見た目通りのバァカ。聞こえてンだヨ。

傷つきたくないから誰かを愛することをやめるなんて、どこかのイイ子チャンが言ってたな。目の前に大好きな女の子がいるってのに、新開はさも、お前なんて興味ないなんて顔つきで話を続けてる。
実に滑稽だ、どろりと泥濘のような、土臭い芝居が俺の神経に触る。はっきり好きって言っちまえばいいだろ、諦めねぇのがお前なんだろうが。

ぽかんと口を開けてのんびり屋の女は、首をかしげる。そりゃそうだよな、日直の仕事をしている時に恋愛の話を振られるなんて思ってもなかっただろう。


「興味はないのはアタリ」

「ほらな、なあ」

「でもね、新開くん。私は今すごく悩んでるの」

「なにを、悩んでいるんだ」

「ついつい、目で追ってしまう人がいるんだ」

「へぇ…目で追う、かぁ」

「うん、感情を抱く前に私はその人を目で追って、私以外の女の人としゃべっている姿を見ると、ああ、やっぱりか。なんて思っちゃうんだ。そうか、私には何もないよ、その女の人の方が持ってるって」

「?もってる?」


「私にはない物を持っている、彼もそれは同じで、だから持っていないものを埋めようと喋ってると考えれば考え抜いた回路はつながるの」と、笑って女は言った。

新開は首をかしげてその女に「どういうこと?」と聞きなおす。

俺にはあの女が言ったことがちょっとだけわかったような気がする。新開も同じで、持っていないものを埋めようと彼女の周りをうろついて、あわよくば付き合いたいと思っているからだ。