短編 | ナノ

見込まれた不細工
自分の顔は普通だと思っていた。鏡を見れば一目瞭然。それほど高くもない鼻に、ぎょろっと大きいわけでもない目、色白じゃない肌。平平凡凡という四字熟語がぴったりだと思う。
自分の顔にこれといった特徴だってないし、だからって化粧で隠す努力だってしない。そもそも中学生という若さで化粧をするなんて、肌が荒れてしまうではないか。

顔に不満を持たずに生きていた私が気にやみ始めたのはあいつに言われたから。


「やっぱり、不細工だね」


全く以て失礼極まりない。

たれ目の、かわいい顔をした同級生が私のことを貶す。そりゃ彼のような眉目秀麗であれば、人の顔は何とでも言えるだろう。たくさんの女の子に「かっこいいよね」とか「その仕草かわいい」とか言われるんだもの、私もそう思う時くらいはある。口には出さないけれど。新開悠人は私の隣の席で、すごく仲がいいわけじゃない、普通の仲、そう、クラスメイトのハズ。

放課後になって、さっさと帰ろうとしていた時に、突然失礼なことを言い出すから帰れなくなった。さっさと家に帰りたかったのに、そっと口元に手を当てて歪んだ口を隠す。


「小顔はうらやましいんだけど、顔色悪い」

「青白いと言って」

「髪の毛は艶があってきれいなんだけど」

「後ろからドライヤーをかけたほうが綺麗に仕上がるよ」


わざと彼の髪型が崩れるような言い方をしたのに、彼は目を丸くして感心している様子だった。つんつんとしている髪の毛を見てしゃべったはずなのに、うまく伝わらなかった自分を恥じた。


「へえ、一応気を使ってるんだね。トリートメントしないくせに」

「なんで知ってるの?」

「そっちから喋ってたじゃん」

「そう?」

「気の抜けた顔も俺、不細工だと思う」

「そろそろ私の心が折れるよ」

「事実だもん、しょうがないじゃん?」

「不細工と思うならジロジロ見ないで」

「あ、もしかして泣いちゃう?それはそれでいいんだけど」

「泣かないよ」

「ふーん、つまんない。不細工のくせして」


そういいくるめて新開悠人はその場からいなくなった。やっと家に帰れる、そう思ってほっとした。けど、目から涙が止まらなかった。こんなにも、悲しくなるなんて考えもしなかった。悠人はただのクラスメイトなのに私が一方的に傷ついて自分の顔について過敏になるのはおかしい。



悲しみを乗り越えることなく毎日が過ぎ去った、ある時。
男子バレー部の友達が私を呼びだして付き合ってほしいと顔を赤らめて告げた。場所はお決まり、体育館の裏。彼の誠実さはよく伝わった。答えを待ち望んでいる瞳が本気だったからだ。罰ゲームじゃない。だけど、私は彼とは友達以上の関係になることを望んではいないし、考えてもみなかった。そんな不確かな気持ちで「いいよ」なんて軽々しく言えたらカミサマは許さない。友達は、私の返事を聞くと力なく笑って「ごめんね」だけ言い残した。


謝るのは私のほうなのに。地面とにらめっこしていると、目の前がふと陰った。顔を上げると悠人が不機嫌そうな表情を浮かべて口を開いた。


「不細工なのに俺以外の人と付き合っていいと思ってんの?」

「付き合うって、貰い手いないよ」

「やっぱりそうでしょ、俺が見込んだ不細工なんだから」


誇らしげに言う言葉かそれは。この男に付き合ってられない、不細工、不細工って馬鹿の一つ覚えみたいに何度も繰り返す。傷ついている私には目もくれず。無性にこの場所から飛び出したくなって、後ろに下がった瞬間。悠人は私の腕をつかんだ。


「だから、俺がもっと輝かせて見せる。それでこそ俺のものなんだから」