短編 | ナノ

バカップルの話
子供っぽいところがあると思えば、実は大人っぽいところもあるんだ。
美味しそうに食べている姿や、うさ吉に餌をやっている姿は高校生って感じがするけれど途端にかっこよくなるのはずるい。


人生初めて出来た彼氏はいろんなことを教えてくれる。初めて出会ったのに、何故か手を握られて顔を赤らめて「付き合って欲しい」と言われて私は勢いに負けて首を縦に振った。後悔していないわけでもない、でもそれくらいが私にとってはちょうどいいかもしれない。


「ナマエ、今日のパンプスお気に入りだろ?」

「なんでわかったんですか」

「そりゃ、いつも一緒にいるんだから。俺結構ナマエのこと知り尽くしてるぞ?」


私の右手を握りながら片手でクッキーを食べている新開くんは、ニヤニヤしはじめる。いやらしい意味のニヤつきではなく、幸せそうな顔つき。そんな横顔も私は好きになっていた。


「俺とおんなじ顔している」


口の周りについたクッキーのかけらをぺろりとその熟れた赤い果実のような舌で、舐めとった。新開くんも、自分が幸せそうな顔をしているのは自覚してたんだ。私は自分の顔を触って確認してみる。少しだけ硬くなったほほの筋肉に納得。


「ナマエ」


新開くんは握っている私の手をちょっとだけ力を込めて握りなおす。
名前を呼ばれて、横にいる新開くんの方を見ると、厚い唇で挟まれたクッキーが上下に動いている。だが、上下に動いているだけであって、食べられてはいない。首をかしげて言葉を待っているとニコニコしているだけで、なにも答えてくれない。

食べていいのかな。

そっと顔を近づけて香ばしい、焼き跡がついているクッキーを私の唇で挟んだ。そのまま受け取ればいいのかと思ったら、新開くんは予想外にも近づいてきた。だんだん近くなってくる自分の顔と新開くんの顔。あと少しで鼻の先がくっつきそう。有ろうことか、新開くんは目をつぶってグイグイ迫ってくる、彼は本気らしい。だから私もその勢いに負けて目をつぶって顔を近づける。