リアルズキンと肘に痛みが走る。
野球時代に背負った重たい十字架は今でも俺を締め付ける。ブッ壊れた右肘は、昔ほどではないが痛みは残っている。寒さがきついとなおさらだ。
周りには気づかれないように、上手くやっているがモノをうまく持ち上げられないときはどうしても嘘を付かなければならない。自分の嘘の匂いは嫌いだ、遠い昔の自分を思い出す、すべてが全て離れて行って、手にあったものがこぼれ落ちていく。信頼しているアイツ等にそんなことはさせたくない。それも、あの子ならもっとさせたくない。
寮のなか、一人で外の雪を見つめていると、痛みを忘れてしまう。このまま雪の中に消えちまえば本当に楽なのに、なんて柄にもなくそう思ってしまった。しんしんと降り積もっている雪に気を取られていたのか、背後から抱きしめる彼女に微塵も感じることはなかった。
強く抱きしめずに、ふんわりと包み込むように腕を絡ませて。
細いわけでもない、健康的な色、左手首には藍色のベルトに付属しているチャームが揺れ動くオシャレな腕時計。
俺はその腕に自分の左腕だけを動かしてそっと触れた。
先程まで外にいたのか、湿っていて冷たい。指先から、まるでナイフを突き刺したような冷たさに俺は目を見開いた。
逃がさない、離さないために俺は彼女の腕を力強く引き止める。はあ、っと湿り気のある吐息にほっとした、ゆっくりと自分の力を緩めてみる。
「甘いよ、荒北」
彼女は泣き出しそうな声だった。降り積もっている雪は一向に溶けることがない、彼女はどうして泣きそうなのか、そして俺は甘いのは何故か。気張っていたせいか、口を一文字にしていた、疑問を投げかけようとしたとき、自分の目の前に外と隔てる窓に目を奪われた。
そこには彼女はいない。
ばっと振り返ると、ちゃんといる。どうして、窓には写っていないんだ。
「ナマエっ!」
「本当のことだよ」
「ナマエ、お前はちゃんといるよな!?ナマエ!」
彼女は、何も言わない。
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