短編 | ナノ

彼女の行動が読めない
「美味しいキスが食べたい」


魔性の女と新開と東堂に言われている俺の彼女は、男の力を超えて押し倒す。欲情した時によく香る雌の匂いが一段と強く香った。このままじゃ俺の理性も崩されるのは時間の問題だ。今日この日まで押し倒されようが、キスされようがその一線を越えないように緊張感と理性を保ってきた。が、これは窮地に追いやられた。


「ナマエチャァン?どいてくんナァイ?」


俺がそう言って、肉欲丸出しの彼女をなだめると不満そうな目つきに変わり「私じゃ満足できないの?」なんて言い始めた。

普段から真面目そうな彼女がそう言うなんて、ギャップ萌えじゃねぇかよ。殺す気か。

「ねえ、靖友」と、せがむ様に俺のワイシャツを引っ張る。すん、と自分の鼻を利かせると別の匂いがした。この匂いは、メスの匂いではなく。


「嘘つくと閻魔様に舌を引っこ抜かれんぞ」

「は、嘘なんてついてない」


自分の手に力を込めて彼女をぐっと押し返すと、絶望したかのような面持ちに変わった。どこの誰が吹き込んだんだか俺にはわからねぇけど。きっと寂しいんだろうなと感づいた。長い髪の毛が俺の頬に掠められ、くすぐったいと思っていると今度は雫が滴り落ちて俺の頬を濡らした。


「つめてぇよ、ナマエ」


唇をかみしめて涙をこらえているナマエがそのまま俺の額に額をくっつける。擦れ合う鼻の先が俺にとっては官能的で興奮する糧とした。慰労のために俺に接するんじゃなくて、二人の間に大きく空いてしまった穴を塞ぐようにいてほしいなんて、わがままか?俺は片手を彼女の背中にそっと添えると覆いかぶさっていたはずの格好が、寝ながら抱きしめ合う形と変わっていった。彼女は一向に額を離すことはない。


「ナマエ、なんでこんなことするんだ?」


何気ない質問をすると、彼女は答えに戸惑うような素振りを見せた。ああ、そういや俺が気づかないあいだに彼女はメガネをかけていない。こんな至近距離なら裸眼でも俺の顔がはっきり見えるから、こんなことをしたのか?けれど冒頭で述べた言葉なんて、そもそもいらなかったんじゃないか。意味深な言葉を俺に残したもんだなぁ、と考えていると彼女は口を塞いだ。がぶりと食らいつくように貪るように、何度もしてくるキスに停止の合図を送ろう。

そんな安直な考えを孕ませているのが間違いだった、彼女のキスは止まらない。荒い息遣いに俺は理性の糸を切らせた。