短編 | ナノ

今日も完璧な誤解を招く
「落としたんだろ、コレ」

「新開くん、どうして私が落としたってわかったの?」

「っ、さっさと持ってけよ!」


投げつけられた花の形をした、私の大事なピンは地面に叩きつけられて残酷にも、花の形が崩れて、花びらとして舞散った。


破片が危ない、そう思って私は床に這い蹲るようにその粉々になったピンをひろい集める。私が何したんだろう、本当にわからない。夕焼けに照らされワックスで光る床に散らばっている自分のピンをかき集める姿は、滑稽だろう。


新開くんとは仲が悪い、いっぽうてきに私を嫌っているみたいだ。隣の席になることもしばしばあるけど、決まって悪態を付いてくる。先生にも相談してみるけれど、これといった解決策はない。取り敢えず、頼れる友達と一緒にいるけど自分がなぜ嫌われてるのかわからないから、彼のことが気になる。ぎゅっと自分の胃が痛くなったので、思考停止。


そう、楽しいことを考えるんだ、大丈夫。

全て拾って私は帰宅しようと、教室からカバンをとってきて玄関へと向かう。きっと新開くんは部活に行っているはず、安全に帰れるかは不安だけど。階段を下っていると自分の靴の音が響いて、この世界には自分しかいないと錯覚してしまう。邪魔な髪の毛を止めるピンはない、手櫛で整えて耳にかける。


「新開テメェさっさと部活でろヨ!そこでチンタラしてんじゃねぇ!」


怒声が聞こえて私自身、怒られてもいないのに、萎縮してしまった。

この声は自転車部の荒北くんだ、隼人って新開くんの名前じゃん。どうしよう、ここから動けない。けれど立ち往生している時間はない、バスの時間、過ぎたらまた一時間後。それこそ自転車部の人たちが一斉に帰る時間だ。


「靖友、俺は」


何かを言いかける新開くん。お願いだから早く、その場所からいなくなって。神様に願うくらい心の底からそう思った。パタパタと足音が遠のく音が聞こえて、私は安心しきって階段をくだって、玄関へ向かった。


新開くんが私を待ち伏せしてたことを知らずに、また一日すれ違う。