短編 | ナノ

頭をかじる
「ナマエちゃんは葦木場くんと同じような音を出すから連弾にはピッタリなのよ?」


ピアノ教室に通っている私に、何度もさとしてくれるピアノ経験者の私の母。

連弾は嫌なんだ、自分と相手の力量がはっきりとわかってしまうから、それに相手に気を使うし手がぶつかっただけで険悪ムードになったとか小さなストレスが溜まりそうだったから。確かに一台のピアノでたくさんの音楽を奏でるのはいいなぁっと思う。やりたくはないけど。


葦木場くんと連弾したくなくてもらった楽譜はめちゃくちゃに切り裂いて、わんわんと大声で泣いた。

わがままなのはわかってる、他の練習をしていても葦木場くんの音が聞こえるようになってきて力任せに鍵盤を叩くとまた、母に怒られる。


「ねえ、なんで連弾したくないの、やっぱり嫌いなの?悲しいなあ、悲しいなあ!」

「うろちょろして私の耳元で叫ばないでよ、葦木場くん」

「だってせっかく先生に頼み込んで連弾できるようになったんだよ」

「葦木場くんはソロ一本でいいじゃん」

「やだ、ナマエちゃんと一緒にピアノ弾く」

「嫌なのは私だって」

「なんでなんで!一緒にピアノ弾こうよ!」


大きい体なのに拳は弱々しい。
葦木場くんは私が連弾に賛成しないことに腹を立てて、私の背中を叩く。

どこも痛くも痒くもありませんよと、小馬鹿にするような言い方で返すと頭に不自然な痛みが走った。掴まれているような、挟まれているような感覚に近い。恐る恐る触ってみると、髪の毛と、ぷにぷにとした頬。


「葦木場くん、私の頭はすごくばっちいからぺっぺしなさい」

「ん〜!やだやだ、絶対にやだ!連弾してくれるって言うまで離さない!ナマエちゃん一緒にピアノ弾こうよ、早く言ってよ!」


頭を噛まれている私の身にもなってくれ、でも、まあ。ここまで言われちゃ、頷くしかないよね「わかったから離して」と涙ながらに言うと葦木場くんはとびきり笑顔に変わった。