短い言葉で想うあ、かっこいい人だな。
そう思ったのは一年の後半頃。
私がたまたま、図書室で棚の上段に乗っている一冊の分厚い本を取り出そうと手を伸ばしたとき、やっぱり背の低い私には到底無理だった。二三度、挑戦してみたがこんな姿はただのぶりっこだ。無駄が嫌いなので、近くにある踏み台か椅子を探した。後ろを振り返ると、背の高い男の人が立っていて私は怖くなってうつむき加減でその目の前を通っていこうとした。
「どの本をとりたいんだ?」
バリトンボイスで私に向けられた言葉にはっとして、また、本棚の方を向いて指を指す。いとも簡単にヒョイっと本を取り出して私に差し出してくれた。両手で受け取ってお礼を言わせない雰囲気で男の人は去っていった。靴を見ると、一個上の先輩だった。それが人生初めての初恋。
***
本を取ってくれた先輩は金城さんという方で、名前を知ったのは夏のインターハイが終わって表彰式で名前を呼ばれている時だった。
近づきたいな、と思っただけで私は何も行動を起こさなかった。…というのは嘘で、放課後はほとんど図書室にいる。また、金城先輩に出会えるように。きっと覚えていない、片想いでもいいから。
「一途だねぇ、そんなにそのセンパイが好きなんだ。声かけらんないけど」
「うっ」
図書委員の友達が私をいじる。普段と変わらない図書室通い、やっぱり今日も来ないか。友達は書簡整理をしているので口が暇なんだろう、ベラベラと私に三年生のよくわからない情報を与える。
適当に返して、読書を進めているとふと、証明で照らされていたはずの紙面が薄黒い影を成した。貸出かな、と思って顔を上げるとそこには会いたい人がいた。「図書委員なのか?」と、微笑みながら私に聞いてきたので、顔を赤らめて首を横に振った。
「え、いいえ。違います、こっちが図書委員です」
「そうか、すまないがこれを借りたい」
「はい、えっと。学年と名前教えてください」
「三年の金城真護だ」と、目の前の男子生徒が名前を挙げたら、友達はにやっと笑って私の方を見て「ヨカッタネ」とカタコトで言い始めた。
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