短編 | ナノ

鬼は熟考する
あの森の中には化物が住んでいると聞いた。

どんな化物かは誰も知らないけれど、木々をなぎ倒し、突風を巻き起こし、豪雨を村全体に襲わせる力を持っているらしい。俺にはそんなのはどうでもいいわけで、今日も晴天の下で自転車を走らせる。


けれど、天候が怪しくなり俺は引き返すとした。いきなりこうも天気が変わるとは、些か疑問を残し下るが、俺は誤って転倒してしまった。ペダルから足が外れて、整備されていない、斜面へ投げ出された。俺、このまんまじゃ…あ、パワーバー飛んでいった。



ピチャリと、自分の額に水滴が落ちた。
鈍痛が残る頭を動かして霞んだ景色を眺めていると、自分の状況を思い出したとたん、立ち上がろうとする。ぐにゃりと視界が歪んで、膝をつく、俺、死んだのか?いいや、だったら冷たさなんて、痛みなんて感じない。
一体ここはどこなんだ。綺麗に整えられた部屋は、ちょっとだけ可愛らしい。

あのうさぎの時計とか。女の子の部屋だと分かり、森に住んでいる人なんていないという言葉も同時に思い出した。
可愛い山姥でもいるのか、扉が開かれる音が聞こえた。


「っ、っ!」

「え、あ。ちょっとまってくれ。ここはおめさんの家か?」

「!」


出てきたのは白い髪の毛で赤い目の女の子だった。

まるでうさぎのようだ、いいやウチのウサ吉の方が断然可愛い。

ドアに半分だけ体を隠して首を縦に振った。おずおずと指を刺した先には水が置いてあって、飲んでもいいらしい。近くには俺の服が掛けてあった。ちゃんと洗濯をしているのを見る限り、俺は長いあいだ寝ていたみたいだ。


「おめさん、喋れねぇのか?」そう聞くと、首を横に振った。


なら、どうして喋らないんだと聞くと、女の子はスケッチブックを持ってきて何やら文字を書いて見せたけど、俺には難しい字だった。何時代の字だこれ。
口で言ったほうが早い。「悪いんだけど、おめさんの字は達筆すぎて読めねぇんだ、喋ってくれねぇか?」と俺が言うと泣き出しそうな顔をする女の子に俺は「本当なんだ」と告げた。


「…ば、化物の私をころ、しに来たのか」


物騒なことを言う女の子だ。俺は首を横に振って「化物殺しに来る奴が、こんなに細かったら食われるだろ」なんて冗談交じりに言うと、女の子はじっと俺を見て虚偽証言をしていないか試す。数秒が経過して、俺は「おめさん、ウサ吉みたいで可愛いな」と言ってみると、女の子は「ウサ吉?」と首をかしげた。

ああ、どうしよう。この子持って帰りたい。