短編 | ナノ

これも運命じゃないか
*病み表現を含む

ペチン、なんて可愛い音なんてしなかった。
物静かな空間で響いた音は物騒な音。全く、こんなことになるなんて予測していたら私も作戦くらい考えてるよ。


情夫がいると、彼は勘違いしているんだから、そういう時は弁解するのが一番だって、周りから習った。けれどこれは、どんなに頑張ったって逃げられない。じんわりと、頬に熱が伝わってくる。じんわりと鈍痛が広がっていくのがわかった。つきりと胃が痛くなったのが感じられる。


「なに浮気しちゃってんの?無言で済むと思うなよ」

「違うって、靖友」

「っせ」


ドンと音が聞こえて目を開けると、そこには泣き出しそうなくらい顔を歪めている靖友が覆いかぶさっている。足をばたつかせないように、上から押さえつけるように座っていた。本当に逃げ場がない。離床するなんていう余地もない、ここで私は犯されてしまうんだろうか。ぼんやりと考えていると、靖友は私の首筋にかぶりついた。


「やすとも、いたいよ」

「痛がればいい」

「やすとも、なかないで」

「泣いてなんかいねぇヨ…ッ」


強がっているように見えるのは、きっと長年付き合ってきた私が敏感すぎたんだ。付き合ってもない、私たちの曖昧な関係は一歩踏み外したら崩れそうなくらいもろい。さっきの彼が言った言葉は、彼自身を縛り付けるフレーズだったのだ。「浮気」なんて、私たちには持ち合わせなくたっていいのだ。


「靖友、私はあなたが好きだよ」

「っ、何でそう思うんだ。暴力振った俺のこと好きだって言えんだヨ!」

「暴力振るわれても許されるのはあなただけよ」私から顔を近づけて、靖友の耳たぶにキスをすると、彼が息を吸う音を聞き取った。