短編 | ナノ

キューピットは恋をした
「ナマエ、あのね。私荒北くんが好きなの」なんて可愛らしく言う双子の妹。


私は笑顔で「それならお姉さんにまかせなさい。恋のキューピッドになるわ」なんて言ってみたけど、それは難しくて無責任な発言だったって今振り返る。
蝶よ花よと私が手塩にかけて面倒を見てきた妹はどうして、あんな破天荒な男を好きになったのか全く理解できない。

可愛らしい顔をしている妹だから、ああ、そうだ。新開くんがいいんじゃないかと一度勧めたことがあったが、全力で拒絶された。荒北の良さがもっとわからなくなった。面目ない、我が妹よ。どうやっても荒北を振り向かせるのは難しいよ。


「あぁ、奇々怪々!衆知を得ても結びつかないとは」

「ナマエチャン、すっげぇ変な人だから黙っててくんナァイ?」


となりで黙々と大学受験の準備をしている姿を一瞥し、私は頭を抱えたくなった。

荒北の行く大学はいつの間にか私と同じになっていた、聞いていた時は妹一緒だったのに。罪悪感が残る。勉学に勤しむ様子なんてなかなか見れたもんじゃないから、私はベストショットじゃないかとつぶやいて、カメラを起動させて写真を一枚拝借しようと考えたが。


「気が散るからやめてくんナァイ?おバァカチャン?」

「…命令に服するわけじゃないけど、ごめん」


奥の手も尽くしたのに、荒北は妹に一ミリたりともなびかない。誰かほかに好きな人でもいるのか、荒北よ。
こうなったら巫術でも使って荒北と妹をくっつかせよう。


「何でそんなに妹の恋愛に必死なわけ?ナマエチャンには利得なんてねぇじゃん」

「?妹が幸せになれば私も幸せだよ。毎日笑顔を見られるオプション付き」

「それを言えるのは今だけだぜ?妹がお前のそばに一生いるわけじゃねぇんだし」


あ、そうだよね。鬱々になっていく心に、荒北の言葉が渦巻く。手が止まっているのを気にして、荒北は私の頭に手を当てた。躊躇い勝ちに頭を撫でる当本人を見ると、熱っぽい眼差しで、半開きになった口から何かが紡がれそうな感じがした。


「俺が靡かねぇのは、どうしようもなく妹好きの姉が好きになっちまったからだ」そう言われてしまったら、もう後には引けない。妹が荒北に惚れた気持ちがかぶった。