短編 | ナノ

ドアを蹴破る
*注意、オリキャラ登場を含む




「新開くんと付き合いたいなんて夢物語語ってんじゃないわよ」


こいつホント私に容赦しねぇな。放課後、めったにない補習授業を終えて課題を解いている私と同じ部活に所属する友達、もといい悪友の雪音ちゃん。

だが、彼女は目の前で堂々とサボっている。机の上には落書きノートを開いて紫色のペンで色を塗っていた。私はというもの、真面目に先生が徹夜して作ったんだろうなと思われる誤字脱字の多い問題を着々と解いている。終わったプリントを見たら、雪音ちゃんは「見せてけろ」と言うんだろうな。流石、魔性の女。
断れない私もアレだけどね、ごめんごめん。

珍しい恋愛話に花を咲かせていると、私は最近思うことを口に出した。
全否定する彼女に私はシャープペンを突き刺そうと考えたが、やめておいた。彼と付き合いたいわけじゃない、好きだといったのだ。

付き合える可能性なんて微塵もないことくらい私だって無知ではないのだから。


「…雪音ちゃん、もうちょっと柔らかく言ってくれればいいんだけど」

「人が苦手なくせして出来るわけないでしょ、ほらさっさと問題といて頂戴!」

「ヘーイヘイ」


得意のペン回しをすると彼女は黙り込んで、色塗りする手を止めた。「なんか、吻合しないんだけど」と眉間にしわを寄せて文句を言い始め、有ろうことか、新開くんとの出会いを聞き出すのだ。
阿婆擦れな態度が気に食わないわけじゃないから、私は仕方がなく話すことを決めた。


「てか、さ。なんで新開くんな訳?アンタの趣味からして意外性抜群なんだけど」

「私、人が嫌いなの知ってるよね」

「え、ええ」

「だから、動物とかが癒しになる」



つい先日のことだ。

お昼休みに、自転車のかごに入れっぱなしだった教科書を取りに行くためにポケットに財布を入れて自転車置き場へ向かった。
盗まれてなかったと安堵していると、自転車部の人たちが部室からぞろぞろと出て行っている。あの中に紛れて教室なんて戻りたくない、そう思って、学校ではない別な場所へ足で向かった。
適当に歩いていると、小さいうさぎが私の目の前を横切った。


「あ、うさぎさんだ!」


自然と私は引き込まれるようにウサギさんのあしあとをたどってみると、鼻をフコフコしているウサギさんが立ち往生していた。
しゃがみこんで私が手を伸ばしてみると、ウサギさんは私の方へ近寄って指先の匂いを嗅いだ。

警戒心むき出しで私の指をかじってくるのかと想定していたが、範疇を飛び越した。荒んだ心が浄化されるような感覚に麻痺して口が滑ってしまう。


「ひとりでも頑張るなんて、飼い主さんがたくさんの愛情を注いでもらっているんだね」

「褒められちゃったら何も言えねぇな」


後ろから声が聞こえて私は、驚いた拍子に尻餅をついてしまった。あ、パンツ見えてなかったよね、いつもしゃがんでいると、姿勢が悪いせいかギリギリ見えるか見えないからしい、雪音ちゃん曰く。焦りと、恥ずかしさで顔を赤らめていると、新開くんはのんきに「大丈夫?」なんて細長いクッキーみたいなものを咥えて言う。

手をさし伸ばしてくれたので、遠慮なく手を掴むと「あ」と声を上げる新開くん。


「ミョウジさんじゃないか、餌でもあげてみねぇか。ほら、人参とか」

「…」


ニコッと笑って、私に差し出していなかったもう片方の手で握ってあるビニール袋を見せつけた。


「な?」




という、ことがつい先日あったんだと伝えるとニヤけ面の雪音ちゃん。

「青春してたんだね、あんた」

「灰色ライフだもん、どうせ」

「悪かったわよ、言い方きつかったわ…うん、ほんとごめん、じゃ」


いきなり立ち上がると、帰る準備をする。
時間を見てもまだ、そんなに経ってないしそもそもコイツ課題終わってねぇだろうが!怒られるのは確実に私だ。

座ったまま、机をたたいて私は雪音ちゃんを止めようと、いろいろ言ってみるが効果覿面のフレーズは未だなし。


「え、ちょ、まだ問題といてない!雪音ちゃん!」

「私恨まれても仕方がないと悟った」

「何一人で賢者モードになって」


ガダンと、扉が揺れる音が聞こえた。私は先生かなっと思って見てみるとそこには顔を赤らめた新開くんと、同じ自転車部の福富くん、元ヤンの荒北くんに、あ、自称美形の…忘れた、とこのシーンではであってはいけないような面子が揃っていた。神様に見放されたこれ、地獄で神様を呪いながら血の池にいるわ。


「っ」

「ミョウジ、さんそれ本気?」

「…う、嘘!」

「待って、ミョウジさん!それ、本気なら、俺っ期待してもいい?」

「わわわあっ聞きたくないっス!」

「俺と一緒に脱灰色ライフ送ろう!」