「ナゾや…」


彼、岸本実理は普段バスケとおっぱいの事以外で使わない脳みそをフル回転させていた。彼を悩ませているのは、ほんの数時前に起こった出来事。




「自分これ落とした?」


登校中、岸本の前を歩く女子生徒が、豊玉高校の生徒手帳を落とした。たまたま拾う気になった岸本はすぐに生徒手帳を拾い上げ、女子生徒に声をかけた。振り返った彼女を見て岸本のなかの時が止まる。整った眉に、力強い光りをもつ瞳、鼻筋が通った小さい鼻、キュッと一文字に閉じられている薄い唇。彼女は岸本の好みだった。そして彼は一言多すぎる正直者であった。


「ほい、自分チチないけどまあまあべっぴんさんやん」


彼女は一瞬眉をしかめ、無言で岸本の左手にある生徒手帳を引ったくりさっさと靴箱に向かって行った。残された岸本は一瞬何がおこったのか解らず、目と口を大きくあけていたが、すぐに我にかえる。


「なんやアレ!ふてこー!」


初対面の男に胸が小さいと言われて喜ぶ女はいない。彼女の対応は当たり前の反応だとそこにいる皆が思った。行動は奇跡的に紳士的なのに言動で全て台なしにするあたりが岸本が岸本たる由縁でもあるのであろう。
教室に入ると彼女がいた。驚く岸本。三年生になって2ヶ月、お互いにまだ同じクラスの人間を完全に把握出来ていなかったようだ。


「おう、同しクラスやったんかいな」

「…」


無視。彼は無視がとても、すごく、嫌いであった。席についている彼女に詰め寄る岸本。


「なんやねんお前喋れやそんなに俺んこと嫌いか」

「…ちゃう」


喋った。彼は内心びっくりしていた。そして同時にその見た目のクールさと可愛らしい声のギャップにどきどきしていた。


「私、人見知り、すんねん」

「あ?人見知り?」


ぽそぽそと消えるような声で喋る彼女の言葉を何とか聞き取るが、人見知りという意味はわかっても気持ちは彼にはわからない。


「やから別に、あ、あんたんこと、嫌いとちゃう」


顔を赤らめて自分の事を嫌いじゃないという目の前の女子生徒。ということはつまり自分を好き、というとてつもない勘違いが岸本の中で出来上がる。


「え、な!ほっ、ほなお前俺ん事」

「好きでもないけどな」

「そこは即答すんかいな…」


一瞬期待してもーたやんけと呟く岸本に彼女は微笑んだ。その微笑みが何故かとても照れ臭く、顔を赤らめるタラコ。おっと失礼、岸本であった。


「な!なに笑てんねん!」

「…笑てへん」

「うそつけ!何?何かついとる?」

「…きしょ」

「あ!?」


しばらくそのやり取りを繰り返し、照れと怒りでどんどん顔があかくなっていく岸本の頭頂部を担任が日直日誌で叩いてはよ座らんかと仲裁にはいった事により話は一段落をむかえた。
それから移動教室で一緒になった隣のクラスの南に悩みを打ち明け、今でもあの時の微笑みは何だったのか、なぜ自分は彼女にドキドキしていたのか、彼女の名前はなんなのか、と、南にとってはとても、すごく、どうでもいい事をずっと考えている岸本なのであった。



なぞなぞ
答えは簡単で難解







(なあ南なんでやと思う?なあ!)
(それは幻や、お前と話す女子なんかおらん)
(おるわ!ぼけ!おるわ!)
(泣くなや)




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勝手に巨乳好きと
決め付けておいて何ですが
岸本氏の本当の好みは
はたしてどのような
女性なのだろうか