最近あのどあほうが俺の使っていたバスケットコートを毎朝使いやがるから違うバスケットコートを探していた。
二日ほど前、俺ん家から少し離れたところで、前行ってたとこと反対方面に、バスケットコートがある公園を発見した。ゴールはひとつしかないけど、ひとつありゃ十分だ。


「だむだむだむ、だだむだむ」

「?」


朝、いつものように公園に着いて自転車をとめてるとバスケットコートの方からなんか聞こえてきた。先客か。コートの方を見ると、バスケットボールをドリブルしながら口でだむだむ言ってる変な女がいた。なんだアレは。


「だむ、だだむ、っしゅー」

「!」


のろのろドリブルしてやがったのに、急にドリブルも体の動きもはやくなって、女なのにワンハンドシュートでゴール決めやがった。動きもフォームもまあまあ、いやなかなか良い。


「だむだ」

「おい」

「む?」

「カワレ」

「やだ!」

「む」


ゴールがひとつしかねーから、今度は俺の番、だろ。間近でその女をみると、俺の肩よりもずっと低い身長で、足も腕もひょろひょろだった。俺とは正反対の真ん丸な瞳をぱちくりさせながら俺をみたかと思えば交代を拒否しやがった。


「しょーぶ!」

「メンドクセー」

「とうっ」

「!」


いきなりに勝負を挑んできた女は、フェイントを入れて俺を抜き、3Pをまたワンハンドシュートで決める。コイツほんとに女か?ボールを手にとり、乱れたセミロングの髪の毛を耳にかけて俺を挑発的な目で見てくる。


「しょーり!」

「にゃろう」


どれくらいの時間がたったのかわかんねぇ本気でやり合えば差は歴然で、俺が上だった。けどコイツとするバスケは楽しかった。先にスタミナが切れた女がコートに座り込んだ。


「つよいなあー!」

「たりめーだ」


俺が女に負ける訳がない。男と女だ本気だしゃスピードもパワーも比べもんになんねー。でもあのどあほうよりは確実に上手い、コイツ。テクニックが半端ねぇ。


「ねー、名前なんてゆーの」

「流川楓」

「るかー、かえで?」

「そう」


女はタオルで額の汗を拭きながら、俺の名前をたずねてきた。復唱した俺の名前はなんかちょっとチガウけどめんどくせーからまあいーか。


「るかーかえで…かえでちゃん…かーちゃん?」

「チガウ」


なんでそーなった。かーちゃんって言いたかっただけだなコイツさては。ん、コイツ…コイツなんてんだ。


「んじゃ、おさき」

「オマエ」

「へ?」

「ナマエ」

「苗字名前だよ、かーちゃん!」

「ヤメロ」


けたけたとガキみてぇに笑う女、苗字名前は、家が近くなんだと言って歩いて帰ってった。後ろ姿をぼーっとみてたらふいに時計が目に入った。やべ、遅刻しちまう。



ねみー。春先の睡魔には勝てる気がしねー。意識を数回失いながら、今日は無事学校についた。


「ゲッ!おいコラてめぇルカワァ!寝ながら自転車乗るんじゃねーアブねーだろーが!」


朝からウルセーどあほうはいつもどおり無視して自転車を止める。アイツは、どこの学校行ってんのかな。見た目俺より年下ぽいから中学だろーな。それにしても、ねみー。


「あ!かーちゃん!」

「!」


夢?いや夢じゃねーホンモノだ。


「なんでテメーがここにいる」

「なんでって、みてわかんない?」


目の前にいる苗字名前は湘北の制服を着ていた。


「…中学生じゃなかったのか」

「失礼な!立派な高1!かーちゃん何年何組?」

「1年10組…かーちゃんて呼ぶな、どあほう」

「アタシ9組!お隣りさんだね、どあほー」

「マネすんな」


隣のクラスだから途中まで一緒にいこうと言われ、黙っていたら遅刻になるからはやくしろと言われた。いつのまにかコイツが主導権を握っている。ナゼ?俺の隣にくっついてきて、かーちゃんかーちゃん連呼しやがる。気に入ってんのか。


「じゃーね、かーちゃん」

「おい」


引き止めるのに手を引っ張ったら、思ってたより手首細ぇから折れちまうかと思った。


「楓」

「へ」

「楓って呼べ、どあほう」


かーちゃんは、イヤダ。俺はお前の母親じゃねー。


「名前って呼んでくれたら楓って呼んであげる、どあほー」

「む…名前」

「なーに、楓」


どき。なんだ。今一瞬心臓がコワレタ。名前呼ばれただけなのに。
身長が低いコイツの手首を掴んでるから、前屈みになってさっきよりお互い顔が近いということに気付いてから俺の心臓の音はうるさくなるばっかりだ。


「楓、ね、もう先生来ちゃうよ」


こんなに優しく名前呼ばれたの初めてかもしんねー。ダメだ、離したくねー。なんでって、なんでだ?わかんねー、けど、もっとコイツといたい。


「明日の朝も、バスケしに来い」

「ふふ、いいよ!晴れだったらね」

「こらー何やっとるんだお前ら、はやく教室に入らんかー」


ち。ジャマモノめ。今せっかくイートコだったのに。


「じゃあね、楓」


あ。名前はするりと俺の手を抜けて、9組の教室に入ってった。手の平に残ったアイツの、名前の体温だけがやけに現実感があった。




昼も夜もすっ飛ばして
   小生意気な君がいる朝へ







((ねむ…))




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台詞多くね?
そして流川君はきっとこんなに
頭ん中でいっぱい考えない。
駄文駄文駄文ー!