「なんだ、来てたのかよ」 玄関を開けた時に靴があったからいるのはわかってたけど、一応声をかけるが返事がない。電気もつけずに何をしているかと思えば、よくみるとベットの上で規則正しく上下している上布団。寝てやがんな、コイツ。いくら小さい頃から一緒にいるからってただのご近所さんによくここまで気ぃ許せるな。コイツに危機管理能力ってもんはねーのかねえ。 ぺらぺらの鞄を部屋の端っこに置き、学ランをハンガーにかける。時計を見れば19時をすこし過ぎていた。 「名前、飯どーすんの?食ってく?」 返答無し。 「名前」 「…う」 ベッドの頭の方に腰掛けて布団を少しめくると、背を向けて小さく丸まっている名前。顔にかかっている長めの前髪を耳にかけてやると少し身じろいで寝返る。前髪の隙間から見える瞼が腫れて目の下が赤くなっていた。また泣いたのか。 名前はなんかあると俺のアパートに来る。なんの予告もなく、突然。しばらくするとぽつりぽつり事情を話すから、それまで待つ。それまで暇だからつい名前の髪を撫でてしまう。ふわふわの髪の毛を撫でるのはいつのまにか俺の癖になっていた。 「…」 「オ、起きたか」 ゆっくりと名前の瞼が開いていく。見上げて俺だと認識すると、腰に腕を回して抱き着いて腹に顔を埋めた。寝起きのコイツは甘えただ。 「飯、どーする?」 「…イラナイ」 いらねーつっても後で絶対腹減ったって言うんだろうなぁ。わがままというには少しかわいい仕種につい甘やかしちまう俺も自分で自分が馬鹿だと思う。俺の腰に回す腕を放す気はないようなので、ちょっと詰めてと言うとおとなしく壁側に寄ってスペースをあける名前。隣に横になるとまた腹に顔を埋めにきた。 「いつも思うけど息苦しくねーの?」 「…ねえ、フモウって何?ハゲちゃうの?」 「フモー?」 何語だ?前後の文脈がわかんねぇけど多分、不毛のことだろう。俺を見上げる名前の目はやっぱり少し赤かった。どうでもいい俺の質問は無かったことにした。 「…3馬鹿がね、」 高宮が、洋平に引っ付いてばっかだとダメだ、って。大楠は、いつまで洋平に不毛な思いさせるんだ、って。忠も、そろそろ洋平離れしろ、って言ってきたから、洋平がハゲるのも嫌だけど、離れるのはもっと嫌って言って逃げてきた。と、そこまで言って名前はまた俺の腹に顔を埋めた。 「はは、俺保護者扱いかよ」 あいつらニブチンだからなあ。俺がコイツをどう思ってるかなんてわかんねーだろうな。 「洋平、ハゲちゃうの?」 「うーん、違うけど、とりあえず」 確かに、名前は俺にとって大切な人間で、好きかときかれれば好きだ。どちらかと言えば愛しい部類に入る。名前は気付いちゃいねぇし、コイツにとっちゃ俺は恋愛対象外なのかもしれないけど。でも俺のキモチなんかの問題じゃなくて、俺は名前が幸せになってくれりゃあ、隣にいるやつが俺でなくてもいーんだ。そりゃあコイツが俺と一緒にいたいって思うなら最高だけど、名前が笑っていれるなら、それが何よりの俺の幸せなんだと思う。 「何食う?」 「オムライス!」 「よしきた」 やっぱり食うんじゃねーか何がイラナイだ。ベットから出て台所に立ち、コンロに火を付け、フライパンに油を少し入れる。いつものパターン。もしこの日々に終わりがくるならそれは、コイツが出す答えが全て。俺の答えは、もう随分前から決まっているけど。 Answer その日がくるまで このままでいい (よ、う、へ、いっと!) (ケチャップで名前書いてんじゃねーよ、ガキ) (は、げ、ろっと!) (犬にでもやるか) (ごめんなさいいただきます) (はいどーぞ) ―――――――――― そうです。 某アイドルグルーブの 3人組の曲です。 それにしても水戸氏 純情似合いますな。 |