どうして会話をしようなどと思ったのだろうか。俺のなかにはわずかな疑問と後悔が残っていた。




03




「だめだよ」


核心をつかれて戸惑っている俺に駄目という先輩。どうして気になっちゃだめなんだ。そもそもなんで俺の気持ちがわかったんだ。俺の顔を覗き込む瞳が哀しそうに揺れる。


「あたしにかかわっちゃ、だめ」
「わかった?」

「…」


わかんねえよ。先輩に関わっちゃいけない理由も、こんなに綺麗な色してるのに哀しそうな瞳をしていることも。
関わってはいけない理由をきいてしまったら何かが終わってしまう気がした俺は何も言えずにいた。


「ばかなこね」


そう言って、彼女は校舎に向かって行ってしまった。関わるな、なんて残酷なことを言いながら、彼女は笑って去っていった。


「んなとこでなにやってんだ?洋平」

「おお、花道」


後ろからやってきた花道は寒そうに両手をズボンのポケットに入れている。数分前の俺もこんな感じだった。今は胸だけが熱い。はやくいこうぜと言う花道の隣を歩いて、自分達のクラスの教室に向かう。さっきよりも足が重いのは気のせいなんかじゃない。




「おいきいてんのか洋平」

「ん?ああ、なに?」


教室では相変わらず退屈な時間が経過してゆくばかりだった。休憩時間になって、花道が俺の席の前に座って腹が減ったからなんか食いに行こうと話しかけていたらしいが、正直全く聞こえていなかった。それにしても学校にきてまだ2時間もたっちゃいないのに。腹が減る事はなにもしてないはずなんだけどなあ花道のやつ。


「なあ洋平、俺思うんだけどよ」

「なにを…」


俺には何でもお見通しなのだよ、洋平クン!と自慢げな花道の話しをききながら教室から見える屋上に目をやれば、そこにはあの栗色。先輩だ。屋上に先輩と大勢の男女が対立しているのがみえた。誰がどうみても仲良しこよしな雰囲気ではない。女達が先輩の前に立って、何か怒鳴っているようだ。先輩は怯える様子もなく、じっと相手を見据えて時々口を動かすだけ。男達は後ろの方で様子見といったところか。


「ばかなこね」


頭の中で今朝の先輩の声が響く。


「ばかはどっちだよ」


足は勝手に走り出していた。走り出した足は向かう先を知っていた。


「洋平、ダレかに惚れてる?」
「アレ?どこいった?」