「いった…」


殴られた顔にずきずきと疼くような痛みがはしる。顔の感覚が麻痺してぼんぼんしてきた。痛みはおさまるどころかもっと痛あなってくる。体の痣なら服で隠せるけど、切れた唇と腫れた頬は、真夏ではマフラーも出来んからどうしてもかくしきれんかった。くっそ、ちょっとは殴る場所考えんかい。顔はヤバいヨ、ボディやんな!ちゃうんかいな。


「こらーあかんなあ…」


しゃーないからマスクを買いに行く。幸い今日から夏休み。学校休みの間に完治したらなんの問題もない。只今夜21時43分。誰にもみつからんように、出来るだけ俯いて足早に近所の商店街にある薬局に向かう。

げ、あれはもしかして同じクラスの南…南…なんやったっけな下の名前。たしかあの恐ろしいバスケ部のキャプテン。なんでこんな夜遅うに薬局なんかにおんねん。あ、わかったさてはあいつナニを買いに来たんやな。ははーん読めたで、昼間堂々とコンビニとかで買うん恥ずかしから夜のだーれもおらん薬局に買いに来たんやろ思春期め。おっと。南の性的な事はどーでもええねん。マスクやマスク。マスクどこや、って、やば、目えおうてしもうた。
顔見られた。南の目の色が変わったのがわかった。走った。けどすぐに追いつかれた。バスケ部ばけもんやな。捕まれた左手首がめちゃくちゃ熱い。


「待てって…待てやおい、苗字!」

「っ、なによ」

「自分どないしてん、その顔」


振り返ると思ったよりも近くに南がおって一瞬びっくりした。眉間にシワの寄った南の顔が、怒っているようで、哀しそうで、ちょびっとだけ心臓が痛くなった。


「…南に関係ない」

「関係無いとかゆーてる場合ちゃうやろ!誰にやられたんや!」

「転んだだけ!もうかまわんとってえや!」


もっとマシな嘘つけんのかと自分でも思うた。昔から嘘は下手くそやった。こんなことならもっと嘘つく練習しとくんやった。


「ほななんでそんな目すんの」

「どんな目よ!」


もうあかん。これ以上話ししてたら出る。色んなもんが。


「助けて、ゆう目しとる」


そう言うた南の真剣な目に、もう嘘はつかれへんかった。
ついさっきの事やった。帰り道で集団リンチされとる女の子をかばったら、リンチしとった女共にどつきまわされてもうて、通り掛かったポリになぜか捕まりかけて走って逃げてきた事を、上手く動かない口でゆっくり南に伝える。涙、鼻水色んな水分をだしながら、嗚咽混じりに話す私の聞き取りにくい話しにも南は時折、おん、と相槌をうちながら聞いてくれた。


「痛かったな、もう大丈夫やからな」


言葉にならんくて、ひたすら首を縦にふる。南に捕まった時から私の手はずっと南につかまれたままで、でも全然痛なかった。座り込んでしまった私と同じ目線になって屈んで背中を摩ってくれる南。おっきいからしんどいやろにな。


「行こか」

「ぐず、どこに」


ひとしきり泣いた後、思い出したかのように急に立ち上がって走ってきた道のりを逆走する南に訪ねると、南は一度立ち止まって振り返った。あれ、南ちょっと笑うとる。初めてみたかも。


「うち薬局やねん」





まいどおおきに
南龍生堂でございます
 





(学割しとったるわ)
(金とんのんかい)
(ちゅーしてくれたらタダにしたってもえーで)
(調子乗んなやヒヨコ野郎)





―――――――――――


豊玉戦後ちどり荘ので
南氏が流川氏に渡した塗り薬が
怪し過ぎる件…
そして何より不完全燃焼です…



まいどおおきに