ぼくたちはふたりきりで、寮の屋上のへりに腰を落ち着けていた。
さっきまで赤かったはずの空の色は、もう群青へと変わり遠い空だけが彼女の頬と同じく薄く赤みを帯びている。


兄上がいうには、悪魔の王であるぼくがこの学園に出入りしていることは他の人間には絶対に知られてはならない事柄らしい。
他にも何か言っていたがよくわからなかったから忘れた。
だが、もし見つかれば、こうして彼女と会うことも出来なくなると兄上がいうので仕方なく従っている。

そのせいで彼女と会う時は大抵こんなふうに暗く、人目のない場所と限られていた。



馴れ初めはもう忘れてしまったけれど、ただの人間だというのに地の王であるぼくに臆することなく近づいたはじめての女に、ぼくは自分でもわからない内に恋というものをしていた。



「ぼくはきみを愛しています。」

「・・・わたしも」

思ったままを口にだせば、少しの恥じらいを持った彼女の言葉にうれしいがむず痒い感覚が体をを走る。

こうして応じてくれる彼女に愛おしさを感じる。けれどまだだ、まだこの思いを伝えきれてはいない。そう言った欲がぼくの頭を覆う。




「どうすればこの感情が伝わるのでしょう。」

ぼくの考えを反映したその言葉は意識には関係なしにぽつりとこぼれた。
そうして一度出てしまったそれは、止まることなく次の言葉を紡ぎだす。


「ぼくは愛の言葉というものをあまりよく知らないのです。」


ざあざあと木の葉が風で揺れる音がなんとも遠く現実のことではないかのようだ。
数秒の無言の後、きょとんとした表情から彼女は微笑みを浮かべて口を開いた。

「言葉よりもさ」

彼女は唐突に、自然な動作でぼくの手に自分の手を絡ませた。

「こうしたほうが伝わる気がしない?」

ほのかなぬくもりが彼女の手からぼくのヒトの温度よりも少し冷たい手にじんわりと伝わる。

「・・・そうですね。」

彼女のいう通り、その温度はぼくの拙い言葉よりも雄弁に感情の高ぶりを語っている気がした。



(敵わないなあ)

率直にそう思ってしまったことがなんとなく悔しくて、彼女に対抗するようにその体を抱き寄せた。





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企画「bule×bule」さまに提出させていただきました。


110628


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